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2008-01-09-Wed蜜柑の花

otama-neko20080109

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たん たたん たん たたん

たたたん たん たたん たたん

 

枕木の音を数えるうちに、トンネルに入った。

薄暗い電灯に照らされた初老の男の横顔が自分の顔だと、目が慣れるまで気がつかなかった。

「もぉし、今、何時になるぞなぁ」

柔らかな訛りの言葉で時間を訪ねられ、腕時計に目を落とす。

あと数時間であなたの通夜は始まる。



車窓の脇のこの旅行鞄に見覚えはあるだろうか。

渋チンの親父に内緒で缶詰工場の給金を少しずつ貯めた封筒を握りしめ

街に一件しかない洋品店のショーケースの前で、あなたは大きく息を吸い込んだ。


あれをください。ええ、いいえ、そっちの大きいほうです。

ええなあ。キヨシ。これならようけ入るぞな。

おかげさまでこの三男坊も就職しますけん。あしたのフェリーで神戸に発つんです。


俺はずっと下を向いていた。

あなたはモンペの素足に草履をひっかけていた。

松笠みたいにひび割れて寒々と晒された足先の小指だけを、

それから、都会で何十年もの間、この鞄を見るたび思い出すはめになった。



写真は一枚だけ。

嫁入り前のあなただ。

それを選んで持ち出した理由は、覚えていない。

アルバムから乱暴にひっぺがして真新しい鞄に突っ込んだ、この色褪せた写真のことを今夜兄弟達に詫びよう。


トンネルが終わると、瀬戸内の海岸線がまた始まる。

窓の爪を両手でつまんで勢い良く上に開けた。

カーテンがひるがえり、座席は潮風に包まれる。

ななめの席、ふろしき包みを抱えた年寄りの顔が眩しそうにほころぶ。

磯と、濃い花の香り。

西日さす山の段々畑に、懐かしい白い花が咲き始めていた。



◆フィークル短歌仲間の一愚さんの短歌に触発されて。わたしも歌を詠むみたいに書いてみました。

http://www.feecle.jp/blog/?b=irugu&p=105#tag_105

iruguirugu 2008/01/10 00:59 おお!

otama-nekootama-neko 2008/01/10 06:29 なんだか、こういう情景を返歌したかったのですが、うまくまとまらなかったので、書いてみてそのまま載せました。いいたいことを三十一文字に凝縮するのは、いつでも難しいです。でも楽しい。

ゲスト



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