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2010-10-10 (日) このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

[走書き]リサイクルショップ その2

 ~「リサイクルショップ」のつづき~


「じゃあ、ちょっとかみさん相談して、また電話します」

そう言って俺が電話を切ると、少し離れた台所で洗い物をしていたかみさんが、手を拭きながらやってきた。

「どうだったの?」

「うん、まあ、そのぉ、訳ありだと言えば、訳ありかなぁ」

俺は、電話の相手、ウォシュレットを買ったリサイクルショップ店長の様子をかいつまんで説明した。


 夜中に泣くウォシュレットの事で電話した俺の声は、最初からやや怒気をはらんでいた。

 心霊やら超常現象やらを信じている訳ではないが、目の前でしくしくと泣くウォシュレットを見せつけられれば、だれだってこんなもの売りつけやがってと腹がたつのではないだろうか?

 怒りに任せた俺の電話淡々とうけていた店長は、静かにこう答えた。

「それは大変お困りと思います。

 お怒りになる気持ちも、重々理解しておりますが、ちょっとだけ、冷静になって私のおはなしを聞いて頂けますか?」

 どちらかと言えば、そんな事は知らぬ存ぜぬで通してくると思っていた俺は、その店長言葉にちょっと虚を突かれた格好になり

「わかった」

と素直に返事をしてしまった。

 店長の話によれば、そう多くはないがこういう事はたまにあるのだそうだ。

 そこから店長は、淡々と説明を始めた。


 商品は、売る前にはきちんと掃除し、修理できるところは修理し、難点は明示して、売る前にきちんと説明しているが、やっぱりちょっとでも気に入らないと、中古ダメだということで難癖をつけて引き取れと言ってくる。

 だが、原則、返品禁止、機能に購入前の説明に無かった不具合があったときのみ引き取るという約束事を貫いていかないと、リサイクルショップは成り立たない。

 だが、いろんな話の中には、やっぱり不思議な話がある。

 うちのウォシュレットの様な強者はなかなかないが、買ったものを置いていた場所がなぜか濡れる、とか、ある置物を買って以来、次々と新品の電球が切れる、ちょっと置いただけでお気に入りの皿が割れるという小さな不幸が起こるので、たまたまそれを欲しがっていた友人にあげると、今度はその友人に小さな不幸が重なった等という話。

 そういう話をしてくる人ほど、話を聞けば聞くほど実直で、嘘を言っているとは思えないのだそうだ。


 ところが、不思議なことに店に置いている間は、決してそんな事は起こらないのだそうである。

 まあ、家で眼につくところに置いているのと、広い店内に置いているのではちょっと条件が違うので、もしかすると些細な減少が起きているのかも知れないが。

「店は自宅に隣接していますしね、少々高額な商品も置いてありますから、夜中も時々見まわるんですよ」

 頻度はまちまちだが、多い日は、夜中の2時と朝方4時、6時と2時間ごとに見回る日もあるとの事。

「気が小さいんでね、気になりだすと見回らないと眠れないんですよ」

そう言って、店長はちょっと気弱に笑った。

それで、件のウォシュレットだが。

「泣いていた・・・覚えはないんですよねぇ」

物は、知り合いの業者からまとめて買ったのだそうだ。

もう、2ヶ月ほど前のことらしい。

新しくて丁寧に使ってあったので、殆ど掃除も修理も必要なかったのだそうだ。

 ただし、物が物だっただけに、なかなか売れなかったらしい。

 それで、それまで定価の半額にしていた価格を、1万下げたらうちが買っていったのだそうである。

「でも、それまでの間は、そんな事、起こらなかったんですよ。」

 そうなのかも知れない。

 いや、訥々と話す店長言葉を聞いているとそうだったのだろうと思えてくる。

 だが、現実に、うちのウォシュレットは泣いている。

 俺が、もう一度、そう言うと。

「実は・・・ですね」

店長は、これはあくまで推測なんだけれど、と念を押してから、次の話を教えてくれた。

 この品物を買い取った業者は、信用ある人物ではあるが、一方で、わけあり物件の処分もやっている。

 例えば、夜逃して競売にかけられた家の家財の処分とか、孤独死した老人の家の片付けを、親類が嫌がって請け負うとか。

「だから、絶対、入手先は教えてくれないのですが、このウォシュレットとかを持ち込んだとき、裏の喫煙所で一緒に話していると、ついこんな事を口走ったんですよね。

 A区の少年の事件、ありゃ酷いなぁって。

 トイレのドアが釘の跡だらけだったから、閉じ込めたのは一度だけじゃないなあって。

 その後、本人がハッと気づいて慌てて話を変えたんで、私も普通の世間話だと気にしていなかったんですけどね。」

それを聞いて、俺もあ、と声を出しそうになる。

A区の事件。

もう1年前くらいだろうか?

愛人の若い男と暮らしている母親が、息子の中学生存在だんだんと煙たくなって、そしてトイレに閉じ込めて。

「まあ、推測なんで、解らないんですけどね。」

いや、そうは言っても、こういう事は、一度気になるともうダメだ。

俺は店長に、解らないんなら、なんで思わせぶりな話をしたんだと、文句をいうと。

すみません。いま、ふと、思い出したもので。

 本当にすみません。」

 ひとしきり、素直に謝って、その後、ちょっと間をおいて、

「・・・その、今の話のお詫びというわけではないんですが」   

と、店長は切り出した。


「うちもカツカツなので、やっぱりご返品に応じることは難しいです。

 ですが、中古品として買い取ることは出来ます。

 普通、中古品の買値は、それ相応の低い金額にならざるを得ないのですけど、今、余計な口を滑らせたお詫びとして、今回に限って、お買いになった値段の半分で引き取る、というのは如何でしょうか?」

 俺は、うーんと考え込んでしまった。

 もちろん、本音は返品させて全額返金して欲しい。

 噂とは言え、さっきの話を聞いてしまっては尚更である。

 が、店の事情を考えると、機能自体はちゃんとしているウォシュレットを無理に引きとってもらうのは、きちんと対応してくれている店長に対しても

申し訳ない気がしてきた。

 それに中古品買取価格として考えると、買値の半額というのは、確かに大きい。

 それでかみさん相談させてくれ、という事になったのである。


「で、どう思う?」

 俺の問に、かみさんも考え込む。

 だが、そうしている間に、だんだんと俺の中では、もう半値で引きとってもらっても良い気がしてきていた。

 今の電話で、店長はこちらの事を、もう精一杯考えてくれているように思える。

 これ以上の条件を引き出そうとしても、話が拗れるだけだろう。

 半値で買い取るということは、約2万弱になるのだが、ちょっと気になって調べたところによれば、東芝製品がその程度で手に入るらしい。

 ウォシュレット大手のTOTOでなくなるのは、ちょっと嫌だったが、それでも新品で口コミの評判も上々の品物である。

 よし、半値で引きとってもらおう。

「あのさ」

 かみさん相談すると言いながら、結局、自分でかってに結論を出してしまった俺が、その結果をかみさんに伝えようと口を開いたのと同時に。

「ちょっと、待ってねぇ・・・」

 かみさんは、居間の隅に置いてあるパソコンに向かった。

「いや、あのさ、おれ、考えたんだけどさ」

「だから、ちょっと待ってって言ってるでしょ?」

 こうなったかみさんは、もう人の話なんか全然聞かない。

 諦めた俺は、かみさんパソコンで何かを調べだすのをじっと見てる。

 数回検索を繰り返し、いくつかのSSNBBSを覗いた後、

「あった!あなた、これ見て!」

そう言って、ひとつの頁を指さした。

「これって、なんだよ」

 俺は、ややぼやきながら画面を覗き込む。

 なにやら、ある新聞社の読者の投稿サイトらしい。

 ああ、あのトンデモ系投稿サイトか。

 こんなところ見てもなぁ。

不満に思っていた俺の目に、そのページのタイトルが飛び込んできた。

『霊のせい?ウォシュレットの返品について』

「あ、こ、これって」

買取なんてダメよ。

 これきっと、手の込んだ詐欺よ」

「え!」

 なぜか不敵な笑いを浮かべるかみさんと画面を見ながら、俺は絶句した。


~つづく~

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2010-08-22 (日)

[]リサイクルショップ 18:04 リサイクルショップ - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク - リサイクルショップ - ことだまり リサイクルショップ - ことだまり のブックマークコメント

「パパ、トイレで誰か泣いてる」

中学2年の凛々子が、起こしておびえた声でそう囁いたのは、もう夜中の2時過ぎのことだった。

一瞬、寝ぼけているのかと思ったが、最近は、パパは不潔だとか近寄るなと言って俺から距離をとってる凜々子が、俺のパジャマの裾を掴んで小刻みに震えている様子は、寝ぼけているですまされることでは無さそうだった。

念のため、後ろを振り返ると、一度眠ると何が有っても起きないママが、ぐっすりと眠っている。

親子三人がここに揃っているのに、トイレの中で泣いている奴がいるとすれば、侵入者に違いない。

「よし、お前はここで待っていなさい」

だが、凛々子は首を振る。

「パパと一緒に行く」

まあ、ママが側に居るとは言え、多少のことで起きないママでは、誰もいないと々と言うことか。

「わかった、パパの後ろに隠れているんだぞ」

そう言うと、俺はベッドの脇にあった雑誌丸めると、そっと部屋を出た。


一戸建てとは言え、小さな家だ。

三階は二間。

奥が夫婦の部屋で、隣の小さな部屋が凛々子の部屋である。

二階はダイニングキッチンで、ワンルーム

一階にバストイレがあるが、敷地の半分はガレージになっている。

三階建てで2DK,狭小住宅と言われても仕方のないサイズである。

中古で手に入れたのだが、会社の同期が新築で購入直後にご両親が亡くなり、突然実家の商売を継ぐことになったので、格安で譲り受けたものである。

それ以来、十年弱。

空き巣や泥棒に入られたことはなかったが、近所にはそう言う被害も多く、とうとう家もという気持ちはあった。

ただ、トイレで泣いている強盗というのは、ちょっと腑に落ちなかったが。


音を立てないよう、ゆっくり階段を下りる。

ゆっくりと、とは言え、俺と凛々子二人分の体重が移動する度に、階段はぎしぎしと音を立てる。

だが、誰かがその音に気付いて動く気配は階下からは伝わってこない。

やがて、一階に到着し、そっと、トイレの方を覗く。

灯りは廊下に常夜灯が点いているだけで、トイレの灯りは消えている。

だが。


しく・・・しく・・・しく・・・しく・・・・


確かに泣き声が聞こえる。

「パパ、怖い・・・」

凛々子が身を固くする。

大丈夫だ、パパがいるから。行くぞ」

怯える凛々子に声をかけて、俺はそっとトイレの前に進んでいく。


しく・・・しく・・・しく・・・しく・・・・


泣き声は続いている。

だが、ちょっと、様子がおかしい。

あれは、明らかに大人の泣き声ではない。

それは、そう。

子供みたいだね?」

後ろから、凛々子が囁く。

俺は、黙って頷くと、トイレのドアの前に立つ。


しく・・・しく・・・しく・・・しく・・・


泣き声は続いている。

俺は、ちょっと凛々子の方を振り返り、頷く。

そして、トイレの中に声をかけた。

「誰か、いるのか?」


しく・・・しく・・・しく・・・しく・・・


泣き声は続いている。

俺は、声をかけ続ける。

「泣いていてもわからない。

 誰かいるなら、返事をしてくれないか?」


しく・・・しく・・・しく・・・しく・・・


だが、返事はなく、ただ、泣き声が続いている。

「ちょっと、ここを開けるよ?」

そう言いながら、トイレのドアノブに手をかける。


しく・・・しく・・・しく・・・しく・・・


やっぱり返事はない。

ただ、泣き声が聞こえるだけ。

「いま、電気を付けてあけるから。いいね?」

俺は、そういいながら、もう片方の手を電灯のスイッチに手を伸す。


しく・・・しく・・・しく・・・しく・・・


泣き声は止まらない。

俺は、もう一度、凛々子の方を見る。

凛々子も、俺を見て頷く。

俺は、トイレの方に向きなおり意を決して、声をかける。

「じゃあ、1,2,3で開けるからね。せーの、いち、にい、さんっ!」

かけ声と同時に、俺は電灯のスイッチを入れてドアを開いた。

だが。


しく・・・しく・・・しく・・・しく・・・


泣き声はまだ続いていた。

そして。

「きゃーっ!」

凛々子が悲鳴を上げた。

「ど、どうした、凛々子っ!」

見れば凛々子が便座の方を指さして震えている。

大丈夫か?!一体何が」

問いかける俺に、凛々子が応える。

「うぉ、ウォシュレットが・・・泣いてる・・・」

振り返って便座を見た俺にも、はっきりとわかった。


しく・・・しく・・・しく・・・しく・・・・

間違いなく、その泣き声は、便座から聞こえていた。

(つづく)


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2010-08-19 (木)

[]Good grief... 13:11 Good grief... - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク - Good grief... - ことだまり Good grief... - ことだまり のブックマークコメント

 なんと、8月も後半ですね。

 生活基盤が慌ただしいので、何の手も出せず残念。

 ちょっち、全てに立て直しをもくろんで入るのですけど・・・

 暑い夏・・・みなさまもご自愛のほど。

                Long Hot summer From now on...

Power in the Darkness (CCCD) [Bonus Tracks]

Power in the Darkness (CCCD) [Bonus Tracks]

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2010-05-27 (木)

[]夏の夜*1 10:06 夏の夜*1 - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク - 夏の夜*1 - ことだまり 夏の夜*1 - ことだまり のブックマークコメント

「Cola Shock」

その商品を手にとったのは、ただの気まぐれだった。

強いて言えば、ドイツのデュッセルドルフで飲んだアルトビールを連想したからかも。

風呂上りに家族が寝静まった居間で、「Cola Shock」を開けて一口飲む。

瞬間、その味と炭酸の弾ける感じが、不意にボクにあの夏の日の一瞬を思い出させた。

ただ、その一瞬を説明するには、少し長い話に付き合ってもらうことになる。


もう、ン十年も前の話。ボクが高校生の頃。


当時は、「肉食系」だの「草食系」だのという言葉は当然無かったが、言わばボクは「草食系高校生」、まあ、当時、普通に言えば「ダサイ奴」であった。

それでも、人並みに好きな子がいたりしたのだが、当然、告白など出来るはずもなく、ただ漫然と高校生活を送っていた。

その中で、一番時間を割いていたのは、部活であった。

その夏。

部活の合宿で、ボクらはある島でキャンプをしていた。

その日。

一週間の合宿の中日で、丁度だれて来る頃だったせいも有り、昼間、いくつかのミスが連発した。

幸い、事故や怪我人は出なかったが、綱紀粛正のため、夕食後、自由時間にボクらは全員集められ、3年生から説教を食らった。

小一時間、説教された後、やっと開放かと思ったら、副部長のテヅカさんがボクらの方をみて言い放つ。

「2年生は、そのまま残れ!」

まただ。

ボクらは思った。


ボクらの入部当時、一番目立っていた2年生がテヅカさんだった。

明るく快活で、部の中で一番輝いて見えた。

ボクらへの指導も熱心だったが、遊びにも熱心で、放課後、卓球場やボーリング場に連れていってくれた。

喫茶店や食堂では奢ってくれたりもした。

当時の3年生にも評判がよく、何人もの先輩から可愛がられていたが、だからと言って媚びるわけではなく、言うべき時には上級生にもクッてかかった。

だから、当然、ボクらは次期の部長はテヅカさんだと思っていた。

本人もそう思っていたのだと思う。

だが、予想に反し、部長になったは地味で無骨なクマイさんだった。

ボクらは、なんでだろうと思った。

その理由は、すぐわかった。

副部長になったテヅカさんは、人が変わった。


「だいたい、お前らがちゃんと指導しないから1年生がつけあがるんだ」

違うだろ。

その場に居た2年生5人全員が思っていた。

今日のミスは1年がつけあがったとかいう問題ではない。

確かに、きっかけは1年生のユミちゃんのミスであったが、それで彼女を責めるのは筋違いである。

なぜなら、ユミちゃんにいい加減な指示をしたのは、誰あろうテヅカさん本人だからだ。

しかも、傍目から見ても、テヅカさんはユミちゃんに相当入れ込んでいた。

テヅカさんのお気に入りなのだ。

なので、今日のことはボクらの指導力の所為にして、ユミちゃんは悪くない、と言いたいのかも知れない。

もっとも、ユミちゃん自身は、テヅカさんの事を何とも思っていない、いや、むしろ若干、迷惑がっている様子があるのだが、テヅカさんはそんな事眼中に無いようだ。

「とにかく、今日のことは、俺がクマイにもちゃんと言っておくから、お前らも明日からは、ちゃんとするように。

 わかったな!」

何をちゃんとしろと言うのか、全く解らなかったが、とまれ、はた迷惑なとばっちりの説教は、自由時間が終わる頃になってやっと終わった。


ボクらはもうぐったりしてしまって、文句をいう気力もなく、それぞれのテントに戻った。

テントは、基本、1年から3年までが一人づつ3人に一張割り当てられている。

ボクのテントは、部長のクマイさんと一年のテルヤが一緒だ。

テントに入ろうとすると、丁度、クマイさんがテントから出てきた。

クマイさんはボクを見て、ちょっと、同情したような顔になった。

「まあ、テヅカのいう事は、あまり、気にするな。

 ケガや事故がなかったのは、お前らがフォローしてくれたおかげだからな」

「はい、ありがとうございます。」

ボクは、無表情のまま、機械的に返事をした。

クマイさんは、分かっている。

ボクらの予想以上に、いろんな事を理解し、適切に判断している。

今になって前の3年生がクマイさんを部長に選んだ訳が分かった。

だが、クマイさんはテヅカさんに何も言わない。

それを知ってかテヅカさんは、すき放題やっている。

その意味では、ボクらにとってはクマイさんも同罪のように思っていた。

「明日も早いぞ。

 早くねろ」

そう言って、ボクの方をポンと叩くと、クマイさんはどこかに歩いていった。

手にスナック菓子を持ち、後ろのポケットが膨らんでいるのを見ると、今夜も3年生同士でどこかで集まるのだろう。

きっと、その場で、テヅカさんはボクらに説教した時のことを、得意げに面白おかしく話すのだろう。

それを想像してしまって、ちょっと嫌な気分のまま、ボクはテントに入った。


「お疲れ様です」

テントの中では、テルヤが正座して待っていた。

「なんだよ、正座なんてしなくていいよ」

「でも、俺らのためにテヅカさんに説教されて」

そう言ってボクを見るテルヤの目が、ちょっと潤んでいる。

こいつは、1年の中でもバカが付くほどまっすぐな奴なので、余計に気にしているのだろう。

テルヤの純粋さを見ていると、去年のボクらはどうだったんだろうと、ちょっと反省してしまうほどだ。

「ばか、違うよ。テヅカの2年いじめだから気にすんな」

「そうなんですよねぇ」

テルヤは腕組みして、しみじみという。

「え?」

「いや、テヅカさんって、なんだか本当に2年生の皆さんを目の敵にしているように見えるんですよねぇ」

いやぁ、人一倍お人好しで真っ直ぐ君のテルヤにまでそう見えているのなら、テヅカさんのボクらに対してのいじめは相当なもんだなと、ボクは苦笑した。

「まあ、いつものことだから。

 明日も早いし、さっさと寝ようぜ。

 クマイさんは、今夜も夜中まで戻らないだろ」

「はい、わかりました」

テルヤがそう返事して、ボクらが就寝の準備を始めたとき

「おい、タムラ、起きてるか?」

そう声がして、テントの入口が開いた。

ハヤシバだった。

「おう、もう、寝るところ。

 どうかしたか?」

ボクが答えると、ハヤシバは後ろから何かを差し出した。

「こういう物が手に入ったんだけど、どう?」

それは緑色に黄色いラベルのボトルだった。

ボクは苦笑した。

ボクは酒が飲めなかった。

いや、味になじめないので、真面目に飲んだことが無い、というのが正しいのか。

やめとくよ、と答えようとしたとき

「うわ、カティーサークじゃないですか!

 どこから持ってきたんですか?」

そう声を上げたのは、テルヤだった。

「おう、テルヤ。

 解るか?

 スコッチだぞ、スコッチ」

「はい!沖縄のじいちゃんの家で飲みました。

 癖がなくて飲みやすいんですよね、これ」

おいおい、さっきまでの真面目で純粋なテルヤくんはどうした。

「わかってるなぁ、テルヤ。

 お前もこい。

 なあ、タムラも行こうぜ?」

そう言って、ハヤシバがボクを見た。

しかたない、付き合うか。

ボクはしぶしぶ、立ち上がった。


3年生は、山側の見晴台のところで集まっている。

ハヤシバの情報を元に、ボクらは反対の海辺に向かった。

そこには、先に2年生のヤマガミ、オーシバ、ミムラが集まっていた。

「おーい、来たぞ、テルヤも連れてきた」

「おせーよ。

 折角、これ買ってきたのに、温くなっちまうじゃねーか」

そう言ってミムラが、コーラの缶を見せる。

「ワリィ、ワリィ。ブツの入手に手間取ってな。

 あと、タムラがゴチャゴチャいうから」

いや、ボクのせいか。

って言うか、ゴチャゴチャ言ってないし。

「まあ、とりあえず、乾杯と行きましょう」

ミムラが手にしたコーラの缶をプシュッと開けた。

「乾杯はいいけど、どうやって乾杯するんだよー」

オーシバが文句をいう。

確かに、コップも何も無い。

「しまったなぁ、備品から紙コップかっぱらって来るんだった」

ハヤシバが悔しそうに言う。

「この中に直接入れちゃえば?」

日頃はおとなしいヤマガミが、大胆なことをいう。

「そっか!その手があるか」

ハヤシバの声に

「だけど、2年だけだと思ったから、コーラ、5本しかないぜ」

ミムラが反論する。

「あー、ボク、いいから

 テルヤにやってよ」

ボクがそう言うと皆がいっせいにボクを見る。

「なんだよぉ、タムラ。

 この期に及んで、自分だけよゐこぶって見せるってか?」

ハヤシバがちょっと凄んで見せる。

「いや、先輩っ!俺はちょっとだけ貰えばいいっすから!」

テルヤがボクを見て言う。

いや、こいつ、そのつぶらな瞳が潤んでる。

なんなんだ。

「いや、そうじゃなくて、ボク、飲めないんだ」

「えーっ?」

「そうなのぉ?」

いや、みんな、高校生だろっ。

どんだけ飲んでるんだ。

ひとしきりのブーイングの後、とりあえずボク以外でのむということで決着した。

「じゃあさ、これに入れる分、コーラを減らさなきゃいけないから、それをタムラに飲んでもらえば?」

オーシバが余計なことを言い出す。

「ああ、そりゃいいな

 どの位減らせばいいのかな?」

「あ、じいちゃんが、つーひんがーがうまい、とか言ってましたよ」

「つーひんがー?」

「こう、指2本分くらい酒を入れると旨いんだそうです」

「なるほど、じゃあ、この缶だと、五分の一位かなぁ」

「よしっ!タムラ!

 みんなのコーラ、5分の一づつ飲んでくれっ!」

「えっ・・・えーーーーーーっ!」

かくして、ボクは、何故か皆より先にコーラ一気をすることになる。


ボクが飲んで開いた隙間に、ドボドボとカティーサークを流し込む。

氷もなく、かき混ぜるわけでもない。

今考えると、かなりすごい飲み方である。

みんなの「コークハイ」が完成する頃、五分の一の五人分できっちりコーラ1本を飲み終えたボクはすっかり炭酸でお腹がパンパンであった。

「じゃあ、改めて、かんぱーい!」

やっと出来上がったコークハイを片手に、ハヤシバが声を出す。

ボクはコーラ替わりにそのへんで拾った木片を持たされていた。

ハヤシバの声とともに、皆一斉にコーラの缶を口に運ぶ。

一瞬の沈黙ののち。

「ウメー」

「おー」

「ちょっと濃いなぁ」

「きくーっ!」

「・・・げほっ、ゲホゲホゲホ」

「・・・うすっ」

それぞれの反応が極端に違うのは、高校生だからか。

「やっぱ、スコッチは違うねー」

「いや、コーラの味しかしねー」

「俺はビールの方がいいなぁ」

「先輩、もう少し足してもらっていいっすか?」

ひとしきり味についての感想があり、その後、テヅカさんについての愚痴があって、やがて話題は女子の事になる。


「おれさー、ユミちゃんっていいって思うんだよねー」

少しトロンとした目つきで、ヤマガミが言う。

「えー?なんだか、ボーッとしてる感じだけど?」

とりあえず、なんでもイチャモンを付けるハヤシバが返す。

「でもさ、マジメで結構気も利くんだよね」

ユミちゃんと同じ班のミムラがヤマガミをフォローする。

「ああ見えて、成績も良いらしいよ?

 この前の期末テスト、学年で10番位だったらしい」

更に、学内情報通のオーシバが余計な情報を付け加える。

「でしょ?なにか教えてもすぐ理解するんだよねー

 教えがいがあるというか」

「おー、ヤマガミ先生、ぞっこんじゃないっすか!」

「いやー、ぞっこん、とか、そういうんじゃないけど」

そういいつつも、ヤマガミは真っ赤な顔で下を向く。

「なんだよー

 かなりマジだなぁ」

ハヤシバは、ボクの方を振り返って聞く。

「タムラはどう思う?」

ドキッとした。

実は、素振りにも出していなかったが、ボクもユミちゃんが気になっていた。

いや、正確に言えば、ユミちゃんと一番親密なのは自分だという自信があった。

あれは、1ヶ月ほど前のことだった。


この合宿に参加する前に、1年の部員は予備合宿と称して、土日を校内で過ごす。

ボクらの合宿は、宿舎やバンガローに頼らないテント生活中心のまさにキャンプになる。

なので、ロープの結び方を始め、テントの貼り方、竈の作り方など、アウトドアの基本をしっかりと身につける必要がある。

1年生は、入部当初から練習を重ねてきてはいるのだが、この予備合宿で一通り予行演習を行い、完全に身につけるのだ。

このとき、1年生と一緒に寝泊まりして指導するのが、2年生の仕事である。

ただし、基本は1年生に自分でやらせることなので、2年は交代で参加する事になる。

ボクの担当は、土曜の夕飯後から日曜午前中までだった。

自宅で夕食を終えて、夜の7時頃学校に向かうと、丁度、夕方まで担当のオーシバが学校から出てきた。

「よう、おつかれ」

「おお、大変だったよ」

「どうした、今年は覚えが悪いか?」

「いや、そうじゃなくてさ」

オーシバの話によれば、途中からテヅカさんが乱入してきて大変だったというのだ。

例年、予備合宿に3年生や卒業したOBが顔をだすことはママある。

土曜の午前中は、普通に授業をやっている訳だから、誰も見にこないという事はまずない。

だが、それはあくまで「様子見」あるいはOBの場合は「差し入れ」を持っての「陣中見舞い」であり、さっさと引き上げるのが通例だ。

そりゃ、そうだろう。

予備合宿は、1年を指導する場であると同時に、2年生を指導者として教育する場でもあるのだから。

なのに、テヅカさんは、ずっとみんなの作業に張り付き、ああでもない、こうでもないと口を出した挙句、個人指導だ、と言いながらそれこそユミちゃん達、1年女子に手取り足取り教えようとしたらしい。

丁度、その場にクマイさんとOBの前部長がやってきたので、そのまましぶしぶ帰ったが、すっかりスケジュールが狂ってしまったというのである。

「ひどいな」

ボクが思わず呟くと、

「まったく、疲れたよ

 もう、帰って寝る」

オーシバもそう呟いて、ボクに手を振るとトボトボと帰っていった。

そのオーシバの後ろ姿を見送ってから、学校からテント設営地に指定された第二グランドに行くと、丁度、ハヤシバが飯を食っている所だった。

ボクはハヤシバに近づきながら声をかけた。

「大変だったって?」

その声に、7人いる1年達がボクに挨拶しながら立ち上がろうとしたが、ハヤシバがそれを制して、ボクの方に歩いてきた。

「大変どころじゃなかったよ。

 おかげで夕食のスケジュールが2時間も遅れてさ。

 この後、片付ける事考えると、夜の予定が全部パーだ。」

「まあ、ぼやくな。

 明日の午前中にやればいいさ。」

「俺は明日の朝で帰っちまうけど、大丈夫か?」

「うん、朝になればヤマガミがくるから。」

「そっか、すまんな」

という事でボクらは、今日の夜に予定していた訓練を明日に回すことにして、さっさと食事の後片付けをした後、もう寝ることにした。

時間的には、まだ夜9時を過ぎたばかり。

寝るには早すぎる時間だが、本番の合宿でも就寝時間は10時だし、皆、疲れている様なので良いだろうと言うことになった。

「よし、じゃあ、体育館に行くぞ」

ハヤシバの声で、ボクらは、身の回りのものと貴重品を持って、ぞろぞろと体育館に移動を始める。

当然、本番はテントで寝るのだが、学校から予備合宿の宿舎は体育館を使うよう言われていた。

街中の高校ゆえ、学校の外は歓楽街も近く、夜になっても人通りがある。

グランドの周囲には一応フェンスがあるが、当時はホンの形だけだったので、酔っぱらいがふざけて侵入しようと思えば、いくらでも入ってこられる。

「安全面を考慮して」

というのが、学校の言い分だったが、真相はテジマさん達が一年の頃、テントで大騒ぎして近所からクレームが来たという事らしい。


夜の体育館のなかは、ひんやりとして静まり返っていた。

ハヤシバが天井灯の電源を入れると、ジジジジと音がして天井の水銀灯がぼんやりと光りだす。

まだ薄暗い水銀灯の光のなかで、ハヤシバが指示を出す。

「じゃあ、女子はステージの上、男子は手前の入口付近を使ってくれ。

 洗面、手洗いの時間を20分取るから、さっさと済まして戻るように。

 時間になると施錠しちゃうから入れなくなるぞ」

その声にみんなは動き出し、支持された場所に各自用意されてる寝袋を置き、寝床を作り出す。

 一年生の女子2人は、ステージの上、奥の方でみんなからは見えにくいところに陣取ったようだ。

「ハヤシバさん、もし、遅れて締め出された時は、どうすればいいですか?」

1年生のお調子者、マトバがハヤシバに聞いた。

ハヤシバは、ゆっくりとマトバを振り返る。

「マトバくん、この隣の理科教室、人体標本があるよね。

 あれさ、献体って書いてあるでしょ?

 献体ってさ、本物の人骨って事なんだよ。

 噂では明治時代のここの校長のものでね、それはそれは厳しい人だったらしく、今もね、用もなく校内を彷徨いている人がいると来るらしいんだよね。

 指導しにさ。」

マトバは、急にそわそわし始めると

「いや、俺、その、さっさと顔洗ってきます」

と言い残し、走っていった。

「可愛いもんだね」

その姿を見て、ハヤシバが言う。

だが、その後ろで、ボクが必死に笑いを堪えているのをハヤシバは知らない。

なぜって、その話で一番ビビっていたのは、去年のハヤシバだった事をボクは知っているからだ。

ちなみに、少しフォローをすると、理科室の標本に献体と書いてあり、本物の人骨なのは本当だ。

ただし、校長ものではなく、一般の有志の方の物らしい。

まあ、そういう七不思議は学校につきものということだ。

洗面、手洗いからマトバを含めて全員が戻ったのを確認して、ハヤシバが体育館の施錠する。

そして、それぞれが寝る準備がすんだのを確認して、ボクが体育館の水銀燈を消した。

最初は真っ暗に感じるが、目が慣れてくると外から入ってくる光で体育館のなかは結構な明るさである。

窓の暗幕を閉めればもっと暗くなるのだが、安全のためという理由で、暗幕の使用は認められていなかった。

なので、おとなしく寝袋に入ってみたものの、流石にボクは寝付けなかった。

しばらくもぞもぞしていたが、だんだん我慢ができなくなってハヤシバの方を見ると、驚いたことにもう寝息を立てている。

いや、それだけではない。

気付けば、他の1年生もぐっすりと寝入っている様子だ。

みんな、余程疲れたに違いない。

「テヅカさん、スゴすぎだろう・・・」

ボクは、そう呟くと、みんなを起こさないようそっと起きだし、みんなから離れている方の扉の鍵を開けると、框に腰を下ろした。

腕時計をみれば、まだ、10時過ぎ。

街の歓楽街からは、かすかに賑やかな声が聞こえてくる。

土曜の週末、盛り上がっている人も多いのだろう。

何かの時、親父が

「小さな町だが、人口一人当たりの飲み屋の数は日本一なんだ」

と自慢していたのを聞いたことがある。

「どんなふるさと自慢だ」

ボクがそうつぶやいたとき

「タムラさん」

後ろから、ボクを呼ぶ声がした。

驚いて振り返ると、そこにユミちゃんが立っていた。

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

ボクが慌てて言うと、彼女は首を振った。

「いえ、私も寝付けなくて。

 そしたら、タムラさんが外に出るのが見えたので、そっとついてきたんです。

 あの、隣に座ってもいいですか?」

「あ?ああ、どうぞどうぞどうぞ」

そう言われて慌ててボクは横にずれる。

「失礼します」

ユミちゃんが座った瞬間、ふわりと彼女の香りがあたりに漂う。

その香りに、ボクはちょっとどぎまぎしてしまう。

「ど、どうだった今日は?

 大変だった?」

そのドキドキを悟られまいと、慌てて話をつなぐ。

「はぁ」

ユミちゃんは、ちょっと溜息のような声を出した後、ボクの方を向いた。

「タムラさん」

「な、なぁに?」

急に自分の名前を呼ばれて、とりあえず焦るボク。

「テヅカさんって、どうにかなりませんか?」

「え」

いきなりの展開に言葉が継げないボク。

「親切で教えてくださっているとは思うんですけど、なんだかちょっと、しつこくて」

「う、うん」

「その、そんな事ないと思うんですけど、陰湿な感じもして」

いや、そんな事、十分ある。

ボクは、こころの中で返事する。

「それに、気がつくといつも私の方を見ている気がして、ちょっと怖いんです。」

「そ、そうなの?」

そうだよ!やっぱりユミちゃんもそう思っているんだ。

「悪い人じゃない・・・と思うんですけどねぇ」

いや、悪い人だ!と叫びたい衝動をこらえて、

「そうだねぇ。ただ、自分中心で動いている人だからねぇ

 周りの人の気持は、考えてないのかもねぇ」

と、軽く同意してみる。

「良かった」

急にユミちゃんが、ボクを見てにっこり笑った。

何故か、ボクは顔が急に熱くなる。

「私だけかと思ったんですよ。

 テジマさんのこと、そういう風に思っているの。」

「他の1年はどうなの?」

「わからないんです」

ユミちゃんは、ちょっと俯き加減で答える。

「みんな、大人しいから、あんまり先輩のこととか話さないんですよ」

あぁ、そうかも知れない。

男ばかりでみんな口性ないボクら2年生と比べると、確かに今年の1年は男女ともマジメでおとなしい感じがしていた。

「そっかぁ」

そう答えた後に言葉が継げず、ボクは黙ってしまう。

ユミちゃんも、俯いたまま黙っている。

何か言ってあげた方がいいのだろうが、なにせそういう事に疎いボクである。

向こうでガーガー寝ているハヤシバ辺りならうまいこと言うのだろうが、だからと言って、今、奴を起こしに行く気にはならない。

どうしようかとボクが迷っていると、ユミちゃんがポツリと呟く。

「辞めちゃおうかなぁ」

よく見ると、ユミちゃんはちょっと涙を浮かべているような。

ボクはなんだかパニックになってそして。

「大丈夫!ボクが守ってやるよ!」

「え?」

いや、ボクは何を言っているんだ?

ユミちゃんも、ちょっと呆気に取られた顔でボクをみている。

「あ、いや、守ってやると言うのは大げさだけれど、ボクが間に入って上げる。

 テジマさん、ちょっと自分勝手だけど、言って分からない人じゃないから。

 一応、一年間付き合ってきたし、いい所もいっぱいあるから」

更にワケが分からない。

なんでテジマさんを養護するような発言をしているんだ?

これじゃ、逆にユミちゃんに

「ありがとうございます」

突然、ユミちゃんはにっこり笑ってぺこりと頭を下げた。

「タムラさんに、相談して良かったです。

 おかげですっきりしました。」

「そ、そう?」

「はい!

 そうですよね。

 副部長さんなんだから、テジマさんにもいい所一杯あるんですよね。

 それをなんとか伝えてくれようとしてるんですよね」

「う、うん、まあ、そうかな」

いやー、そうじゃないと思うんだが。

どこでこうなってしまったのか。

「私ももっと頑張ります。

 でも、困ったときは、タムラさんに相談しますから、助けてくださいね」

「お、おう、まかしとけ!」

何、胸張ってるんだボクは。

と焦っているボクを尻目に、ユミちゃんは突然立ち上がると伸びをした。

「うーんっと!」

そして、ボクを振り返って言った。

「なんだか、すっきりしたらお腹空きました。ラーメンとか食べたいですね」

「え、ラーメン?」

唐突な展開に戸惑ボク。

だが、次の瞬間

グーッ

盛大にボクのお腹が鳴った。

一瞬の間の後、ボクとユミちゃんは大爆笑になった。

それから、ユミちゃんとボクは、延々と取止めのない話で盛り上がった。

ユミちゃんは良く笑い、ボクはたぶん、こんなに長い時間、女の子と話をしたのは、生涯で初めてだと思った。

夜中を過ぎて、ユミちゃんが床に就いた後も、ボクは一人で余韻を味わっていた。

きっと誰かがその時のボクの顔を見ると、とんでもなくニヤついていたに違いない。

その日以降、ボクとユミちゃんは、2~3日に一回、学校帰りに喫茶店で待ち合わせて色々話をするようになった。

携帯のない時代、相手の家に電話をする、というのは恐ろしく勇気のいることだった。

なので、この喫茶店での会話が、唯一二人だけになれる時間だった。

もちろん、その事はふたりだけの秘密だった。

だから。

みんなの話がユミちゃんの事になったとき、ボクはちょっとした優越感と共にその話を聞いていたのである。


「おい、タムラ。

 何ニヤケてるんだよ」

ハヤシバに言われてハッとする。

そうだ、今は、そんな思い出に浸る時じゃない。

「ははん、お前もユミに気があるんだな?」

ハヤシバの言葉に、

「い、いや、違うよ!

 ちょっと、コーラ腹でボーッとしてたんだよ!」

ワケの分からない言い訳で返す。

「何だそりゃ?

 とにかく、お前はユミをどう思ってるかっていう話だよ」

いや、勝手にユミちゃんを呼び捨てにするな。

そう思いつつ、ボクは当たり障りの無い答えを返す。

「そうだなぁ。

 いい子ではあるよね。

 真面目だし。

 笑うとちょっと可愛いし」

「笑うと・・・って、お前、いつ笑うところ見たんだよ」

シマッタ。

確かにユミちゃんは、部室では控えめでそんなにはしゃがない。

「いや、えっと、それはだなぁ」

「いつだよ、ええ?

 おー?なんだか、お前、顔が赤くなってないか?」

やばい、本当だ。

ちょっと火照ってきている。

「そ、そりゃ、コークハイを・・・」

「何いってんだ?

 お前、アルコール入ってないじゃないか!

 怪しいぞぉ?」

やばい。

ボクのうっかりした発言で、とうとう二人の仲が。

焦りまくっているボクの耳に、突然、思いがけない言葉が飛び込んできた。

「ユミねぇ…ありゃ、食わせ物ですよ」

「え?」

皆、一斉に声がした方を見る。

そこには、コークハイを、いや、コークハイはとうに飲み干し、空き缶にカティサークのストレートを波々とついで飲んでいるテルヤがいた。

「どういう事?」

最初にユミちゃんファンを自称したヤマガミが、ちょっとキツめに問いかける。

「いや、言った通りっすよ。」

そういうと、テルヤはグビッとスコッチを一口煽り、こっちにふらふらと歩いてくる。

そして、オーシバに向かって言った。

「オーシバさん。

 ユミが成績10位って、言ってたじゃないっすか。

 その中で、ほぼ満点の教科がいくつあったか、知ってます?」

いやぁ、それはいくらなんでも。

「うむ、現国 98、数I 92 現社 95 古文 91。

 まあ、満点に近いかどうかは微妙だが、生物 88があるな」

おい、知っているのか。

「流石っすね。

 その教科の担任に共通していること、何か分かります?」

「共通点?」

「・・・みんな、男?」

ヤマガミがぼそっと答える。

「正解です。そーゆーことっすよ」

そう言って、テルヤはにやりと笑う。

「なんだよ、そーゆー事って」

つい語気を荒げてボクが言う。

「不正を・・・してるってこと?」

ミムラが首をかしげながら言った言葉に

「うーん。」

テルヤが首をかしげる。

「不正…じゃあ、ないっすね。

 テクニックれすよ。」

なんだかテルヤの語尾が怪しい。

「テクニックってなんだよ」

ハヤシバの問に

「だからぁ、テクにーっく。

 男のセンセ、メロメロの」

「な」

ユミちゃんを酷く言われて、ちょっと気分を害したボクが前に出ようとしたとき。

「てめ、もったいぶってるんじゃねーぞ!」

その前に飛び出して、テルヤを羽交い締めにしたのは、ミムラだった。

「もっと、ハッキリ言え!ハッキリと!!」

「ノノノノ、ノー!、ノー!!

 言う、言う、言いますってば!!」

テルヤが思わず、タップする。

「手間をかけさせるな」

ミムラが吐き捨てるように言って、テルヤを離す。

「酷いなぁ、もう」

ブツブツ言いながら、テルヤが首をさすっている。

「で、テクニックってなんだよ」

改めてハヤシバが聞く。

「だから、さっきタムラさんが言っていたでしょ?」

「え?」

いきなりボクの名前が出て、ボクは虚をつかれる。

「笑顔ですよ。え、が、お。」

そう言って、テルヤはボクを見てにっこり笑った。

「テメー、また、そんなわけのわからんことを」

ミムラがキレて、また立ち上がる。

「いやいやいや、説明します、しますってば。」

慌ててテルヤが後ずさる。

「もう、全く乱暴なんだから」

ぶつぶつと呟くテルヤに

「なんか言ったか?」

ミムラが凄むと

「いえ、何でも無いっす」

そこで、えへんと一つ咳払いをしたテルヤは、説明を始める。


少し酔いが回ってろれつが回らなくなっているテルヤの説明を要約するとこういう事らしい。

まず、ユミちゃんは、相談があると各教科の担任に声を掛ける。

最初は、校内で普通の相談、例えばこの問題が分からないとか、この時の授業が分からないとか。


~途中です~

*1:最近、mixi復活、そこでの書きなぐりについたあたたかいコメントから思い出したこと。まあ、いろいろ特定されないよう8割フィクションですけど

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2010-04-30 (金)

たけのこ刺身

[]悪あがき 23:45 悪あがき - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク - 悪あがき - ことだまり 悪あがき - ことだまり のブックマークコメント

なんだよー

4月は結局、書けずじまい

くやしーので、足跡だけでも


ぺた

eagwgmeohfeagwgmeohf2014/03/24 23:55qxbisd.v, http://www.jognbcdxkx.com/ oroxbibupt

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2010-03-18 (木)

[]すまいる 17:17 すまいる - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク - すまいる - ことだまり すまいる - ことだまり のブックマークコメント

だから嫌だって言ったぢゃない。薄暗いし換気は悪いしカビ臭し。ええ、そりゃあ駅から歩いて5分、南向き、4LDK築3年で月7万5千円の家賃は安いわよ。でもそれって、もう十分、怪しいレベルじゃない?訳ありレベルじゃない?しかも、今まで未入居って何よ。聞いてないわよ。そんなの知ってたら、最初からやめてっていうわよ。なのにあなたったら格安だ、出物だ、急がないとヤバいって急かせて。ちゃんと最初から説明してよ。知らなかった?知らないハズないでしょ?下見をしたのはあなたでしょ?最初に来た時から、こんな感じでしょ?たまたまかと思った?たまたまって。あなたが下見した日って、とびっきりの上天気だったじゃない。これまで締め切ってたから、そのせいだと思ったって?だから、3年締め切ってたわけでしょ?おかしいでしょ?おかしいと思うわよね?おかしいじゃない、そこからして。とにかくやめ、引越しはヤメ。業者さんに電話して荷物運び込むの中止してもらいましょうよ。え?何?電話が通じない?そんな事無いでしょ?駅から5分の立地なのよ。その中に飛び出てるマンションの10階よ?何このマンションアンテナ無いの?やだ、本当だ、圏外だ。おかしいでしょ?おかしいわよね、このマンション自体。もう、じゃあ、早くしたに降りて公衆電話から連絡してよ。え?開かない?ドアが開かないって何?やだ、本当だ、開かないわ。そっちの窓は?窓もダメ?開かないの?きゃ!この窓何?錆び付いてるじゃない!いまどき、鉄枠の窓ってなんなのよ!もうやだ!開けてよ!あなた、早く開けて!え?なに?この音何?この女の人がすすり泣くような!いやっ!誰!あの人誰なのっ!いつの間にここに入ったの?開けて、開けてよ!だれかっ!たすけてっ!だれか・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!









ア、ゴクロウサマデス

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2010-02-05 (金)

[]匣女*1 14:25 匣女*1 - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク - 匣女*1 - ことだまり 匣女*1 - ことだまり のブックマークコメント

「なんだ、この女」

それが最初の印象。

朝の通勤ラッシュ。満員電車

俺の前に立っているのは、小さめのポリ袋に、ケーキ等を買った時についてくる様な小さな保冷剤を山ほど詰め込んで、しっかりと抱えている女。

保冷剤が、しっかりと固まっているところをみると、何かを冷やして運んでいるのだろう。

だが、そんな薄っぺらなポリ袋に詰めていては、冷たくてしょうがないだろうに、女は身動ぎ一つせず、ただしっかりとポリ袋を抱えている。

一体何を運んでいるのか。

ガタン。

電車が大きく揺れる。

ぎゅうぎゅう詰めの乗客も大きく揺れ、俺もその女も危うく倒れそうになる。

その刹那、袋の中身がちらりと見える。

匣?

発泡スチロールの匣。

これも野沢菜アイスクリームを持ち帰るときにもらうような小さな発泡スチロールの匣である。

これを冷やしてるのか?

だが女は、表情も変えずに体制を立て直すと、またしっかりとポリ袋を抱えている。

そうそう大きなサイズではないが、すし詰め満員電車では、はっきり言って邪魔である。

丁度、匣を押し付けられている形になっている老人が、邪険な目で何度も女のほうを見る。

が。

女ははやり無表情で立ち続ける。

老人が何度目かで女を見て、流石に何か言おうとしたとき、次の駅への到着を知らせるアナウンスとともに、電車はガクンと減速する。

老人はきっかけを失い、電車はそのまま、駅のホームに滑り込む。

ドアが開く。

大勢の人が降りる。

自分もいったんホームに降り、降りる人をやり過ごすと、再び電車に乗り込む。

気づけば、女の姿はない。

ここが目的の駅だったのか。

この駅に降りた人たちが改札に向かう階段を上っていく。

その中に女の姿を探してみるが、あっという間に別な乗客が電車に詰め込まれ、俺はその女の事は忘れ去る。


その晩。

疲れて帰ってテレビをつける。

いつものニュースをやっている。

俺の好みの胸のでかい女性キャスターが深刻な顔で告げる。

『次のニュースです。

 ○○○○さんを殺害し、その局部を切り取って持ち去ったとして全国に指名手配をされていた□□□容疑者が、本日、凸凸線の電車内で発見され鉄道警察隊によって緊急逮捕されました。』

凸凸線といえば、俺が通勤に使っている路線だ。

いったい、どんな容疑者だ、とテレビを見ると、そこに映し出されていたのは、あの匣を抱えた女だった。

そうか。

俺は得心した。

あの匣の中身は、好きな男のイチモツだったわけだ。

してみると、あの匣女は現代版の阿部定だったのか。

そう思って思い返せば、必死で抱えていたわけもわかった気がした。

それにしても

俺は思った。

発泡スチロールの匣の周りに保冷剤じゃだめじゃん。

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*1文字化けしてる人へ:はこは”はこがまえ”に甲

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