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2006-11-20 (月)予芸が過ぎる

[] 猫化け その1 15:01  猫化け その1 - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク -  猫化け その1 - ことだまり  猫化け その1 - ことだまり のブックマークコメント

「ああ」

 短い悲鳴を残して少女は谷底に消えた。

「ぎゃっ」

 同時にはねとばされた小さな黒い影は、大きな岩に当たって何かが飛び散る。

『お、おちだ。あ、あにぃ、あれ、おちだど』

 どこからか声がする。

 人語ではあるが、妙にしゃべり難そうである。

『ほ、ほっどげ。ほがは、いっべいるで。』

 別の声が応える。最初の声よりも低く響く声。

 地獄のそこからわき上がる声、というのは、こういう声のことを言うのか。

『だ、だ、だども』

 最初の声が、食い下がろうとしたそのとき。

『キシャーッ!!』

 唸りとも咆吼ともつかぬ叫びが聞こえて、最初の声の主がぴたりと黙る。

 そして。

『いくど』

 その声と共に、大きな二つの陰が闇に溶けた。 

 

                       

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 場面は変わって、筑前の国 宗像郡辛家郷(からやのさと)宮田

 

 三方を小山に囲まれ、南西の方向に開けたこの村は、当時の交通の幹線であった長崎街道からは外れているために、人の行き交いは少ない。

 しかし、承久三年(1221年)に 周辺一帯が宗像大社神領となって以来、手厚い加護を受けているおかげで、小さいながらも豊かな村である。

 

 ところがその日は、村人が明け方からあちこちへと走り回り、あわただしい朝を迎えていた。

 今も又、山から駆けてきた一人の村人が、村のほぼ真ん中にある大きな館にむかって走りっていく。

 

 この館は、宮田の村を任された庄屋の館である。

 大きくはあるが、決して贅沢ではない。

 その作りは質素で堅牢、館の大きな理由も、何かあれば村人が集まれる場所となるよう、大広間や客間を備えているからであり、庄屋の人柄がしのばれる物であった。

 

 山から下りてきた男は、まっすぐにその大広間に駆け込んでいく。

 そこには、たくさんの村人が集まり、みな、ひそひそと声を潜めて何かを話している。

 その広間に駆け込むなり、男が叫ぶ。

 「しょ、庄屋様!」

 大広間に座していた村人が立ち上がり、その中を割って、ひときわ恰幅の良い人物が進み出た。

「おお!弥助!

 どうじゃった?」

 庄屋の宮田善右衛門は、懸命に走り込んできて倒れ込みそうになる男を抱きかかえてそう聞いた。

 

 問われた男、弥助は質問にはすぐには答えず、周囲を見回して声を絞り出す。

「み、水を。」

「ほれ、水じゃ!ゆっくり飲めよ!」

 別の村人が柄杓にくんだ水を弥助に渡す。

 弥助は、息つく暇もなくその水を飲み干す。

「ぷ、ぷはーっ」

 そして、そのまま、がっくりと膝をつきそうになるのを、善右衛門ががっしりと抱き留めて、再び問い詰める。

「弥助!

 たのむ、答えてくれ!

 八重は、八重の消息は、わかったんか!?」

 

 期待を込めた善右衛門の問いに対して、弥助はうなだれたまま、首を左右に振った。

「ああ。」

 周囲の村人から、落胆の声があがる。

 善右衛門も、それまで弥助を支えていた手を離し、がっくりとひざまずく。

 手を離された弥助も、ぺたりと両手を床について、ぜいぜいと荒い息をしている。

 みんな凍り付いたように、押し黙っている。

 と、そのとき、弥助が絞り出すように話し出した。

 

「じゃ、じゃが、こっ、これが。」

 そういって、懐から何かを取り出す。

 その付き出された紅い小物を見て、善右衛門の目の色が変わる。

「こっ、これは、八重に持たせた宗像様のお守りじゃ。

 弥助、これをどこでッ!」

 

 八重、というのは、今年十四になる善右衛門の娘じゃった。

 善右衛門には、上に二人の息子が居ったが、二人とも十になる前に、流行病で亡くなって居った。

 それだけに、女子ではあったが、善右衛門の可愛がり様は尋常ではなかった。 

 その八重が、夕暮れに家を出たまま、戻って来ていない。

 夜のうちは、庄屋の家に住み込みの作付人等を使って近所を探していたが、見つからぬと言うことで明け方から村を挙げての騒ぎになっているのだった。 

 善右衛門にお守りのあった場所を問い詰められた弥助は、まだ肩で息をしていたが、顔を上げ、善右衛門を見て答えた。

「犬鳴の峠の地蔵堂の手前から、峠道を逸れた場所に小さく開けた場所がござっしょ。

 そっ、そこの広っぱの脇、沢にせり出す崖の辺りで」

「崖?!八重は、八重は落ちたんか?!」

 善右衛門は、再び弥助の両肩をつかみ、弥助を揺さぶりながら問い詰める。

 弥助は押し出すような声で、答える。

「わっ、わからんのでござっす。

 確かに誰かが争うた様な、そんな跡はあったですじゃが、沢まで落ちたんかどうかは。

 沢にも降りてみようかと思うたですが、なにやら雲行きも怪しゅうなってござったし、ひとまずは、このお守りを見つけた事を知らせしよう思うて。」

 

「わかった。弥助、よう知らせてくれたな。」

 善右衛門はそういうと、弥助を広間にそっと寝かせてから立ち上がり、大声で叫んだ。

「忠兵衛!悪いが、もう二、三人、若いもんを犬鳴の峠に行かせてくれんか。

 あと、他の尾根や平野に探しに行っとる連中も呼び戻して、そん中で屈強な連中をこちらにまわしとくれ!

 

 ああ、そうじゃ、わしも、わしも行くぞ!」

 そう叫ぶと、善右衛門は広間を飛び出した。


つづく

 

 

otama-nekootama-neko2006/11/21 00:09つづき、楽しみにしておりますぞ!

puyoppuyop2006/11/21 09:59★otama-neko
ほーい、がんばりまつ

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