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2007-07-19 (木)ショートホラー

らぶちゃん

先日、ホラー小説を貶したに厳しい批評をしたら、某所で、自分は書けるのかと言われたのでちょいと書いてみたり。

でも、長編は自分が恐くなるので、短編にしてみたり。


[] 犬のこと 15:47  犬のこと - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク -  犬のこと - ことだまり  犬のこと - ことだまり のブックマークコメント

 まろんは、Mさんがいつも連れている黒いラブラドールリトリバー*1盲導犬である。

おはようございます。Mさん。」

おはようございます。今日暑いですね。」

 毎朝、私がMさんに挨拶する時、まろんは、私の方をちらりとみて、パタパタと軽くしっぽを振る。

 一度、その事をMさんに言うと、Mさんは笑ってこう言った。

「そういう行動をするのは、本当は盲導犬としては失格なんです。

 なのにこいつは、私が見えないのを良いことに、こっそりそんな事ばかりやっているんですよ。

 まあ、誘導はしっかりやってくれるので、大目に見てやっていますけどね。」

 その時、まろんが、何でそんなこと告げ口するんだと言いたげな目で、私の方を見ていたのを覚えている。

 だからといって挨拶を止めるまろんではなかった。

 それからも、出会う度にこっそりと私の方を見て、パタパタとしっぽを振るのだった。


 それは、夏の蒸し暑い日曜日の事だった。

 近所のコンビニに向かって歩いている私の横を、もの凄い勢いで真っ黒な影が通り過ぎた。

 一瞬、なんだったのかと振り返った私の目に飛び込んできたのは、盲導犬用のハーネスを付けてどこかに走っていく黒い犬の姿だった。

「まろん?」

 だが、まろんがMさんを放って走っていくなどと言うことはあり得ない。

 以前にしっぽを振る話をしたときに、Mさんから、何が起こってもパニックなどに陥ることなく、ユーザーの元に留まるよう躾けられているのが盲導犬だと聞いている。

 万一、今のが本当にまろんだとしたら、それはまろんが盲導犬としての仕事を失うと言うことを意味している。

 とは言え、今の黒い犬は、姿といいハーネスといい、まろんそっくりだったことも間違いない。

 しかも、走っていく様子に、どこか異様な緊迫感が漂っていた事も気になる。

 私は、悪い予感がして、まろんらしき犬が走ってきた方に向かって走り出す。

 暫く走ると、遠くで救急車の音が聞こえいる。

 やはり、何かあったようである。

 Mさんでないと良いのだが。

 そう思いながら本屋の角を曲がってコンビニがある大通りに出た瞬間、私は息をのんだ。

 大きなトラックが、コンビニに突っ込んでいる。

 その横に、人だかりが出来ていて、誰か怪我人を介抱している様子である。

「すみません!ちょっと通してください!」

 私は、慌てて人だかりの中に入り込んだ。

 そこに倒れていたのは、やはりMさんだった。

 どこかにぶつけたのか、額から血を流している。

「Mさん!Mさん!」 

「あ、ああ、あなたでしたか」

 目の見えないMさんは、声を手がかりに私の方を見上げる。

「大丈夫ですか?!トラックに跳ねられたんですか?!」

 私は、しゃがみ込んで額の他にMさんに怪我がないか様子を見る。

「大丈夫そうですよ。

 直接、ぶつかってはいない様です。 

 避けて転んだ拍子に、アスファルトに額をぶつけたみたいですね。

 脳しんとうも起こしていないみたいですけど、念のため、病院で見て貰った方が良いと思います」

 Mさんを介抱してくれていた人が説明してくれる。

「そうですか、それは良かった。」

 私は、ホッとする。

 だが、さっきの救急車の音が気になる。

「他に怪我人は?」

「いないみたいですよ。

 コンビニにはお客がいなかった様子で、トラックの運転手も、あそこでコンビニ店主からとっちめられていますし。」

 そういって指さした方を見れば、確かに若い運転手が、小太りの店主にもの凄い剣幕で怒鳴られている。

救急車は呼びましたけど、この方だけ病院に連れて行って貰えば、大丈夫そうですね。

 ただ、この方の犬が」

「犬なら、大丈夫ですよ。

 さっき、私がこっちへ来る途中で。」

 まろんを見たと説明しようとしたその時。

「はい、道を空けてください。

 関係者以外の方は、立ち止まらないでください。」

 そう声がして、ひとりの警官がやってきた。

「S巡査!」

 この辺りを担当する派出所の顔見知りの警官だったので、私は声をかける。

「ああ、あなたも来られていたのですか。

 それで、Mさんは、大丈夫ですか?」

 私は、S巡査がいきなり現場も見ないでMさんの名前を出したので驚く。

「こちらの方が介抱してくださっていたのですけど、大丈夫らしいです。

 一応、頭を打っているようなので、救急車も呼んで下さった様です。

 でも、よくMさんが事故にあったと解りましたね。」

 S巡査は、あたりの野次馬を追い払いながら答えた。

「そりゃ、まろんが知らせに来てくれましたからねぇ。

 すぐ解りましたよ。」

 そうか。まろんは、派出所にS巡査を呼びに行ったのか。

 やはり、まろんは逃げ出したのではなかったのである。

 私が、まろんの行動に感心しているところへ、救急車パトカーがやってきた。

 先ほど、私に説明してくれた人が、駆けつけた警官と救急隊員にもう一度状況を説明すると、救急隊員もMさんの様子を確認し、念のため病院検査だけしましょうと言うことになった。

 救急車に乗りながら、Mさんは私の名を呼び、こう言った。

「あの申し訳ありませんが、家族に心配ないと伝えてください。

 私も、病院について落ち着いたら連絡を入れますので。」

「大丈夫ですよ。

 ちゃんと伝えます。」

「あ、それから」

 閉まりそうになるドアから、もう一度身を乗り出してMさんが言う。

「まろんのこと、よろしくお願いします。」

「大丈夫です、きっと探して連れて行きますから。」

 その言葉を聞いて、Mさんは安心して救急車に乗り込み、サイレンを鳴らして救急車病院へと向かった。

「さてと」

 救急車が行ってしまうと、私はS巡査を捜した。

 パトカーで本庁からの増員が来たので、現場検証はそちらに任せて、S巡査事故で半分ふさがった道で交通整理をしていた。

「S巡査お仕事中、申し訳ないのですが、まろんはどこに行ったかご存じないですか?」

「え?まろんですか?

 バイクの私を、この近所まで連れてきてくれたんですけど、その辺に居ませんかね?」

「え?そうなんですか。

 だったら、なんでMさんの所に戻ってこなかったのかなぁ?

 わかりました。

 ちょっと辺りを探してみます」

 そう答えてまろんを探そうとしたとき。

「あの、まろんというのは、さっきの方が連れていた黒い犬の事ですか?」

 声をかけてきたのは、さっき状況説明をしてくれた人だった。

 警察にもいろいろと状況を聞かれていた様だが、私の様子が気になって事情聴取の合間にこちらに来てくれた様である。

「そうです。

 盲導犬なんですよ。

 まろんを連れて行ってあげないと、Mさんは目を失うことになりますからねぇ。

 どこかで見かけたんですか?」

 そう私が聞くと、その人は答える。

「いや、その、私、ずっと事故の様子も見ていたんですけど。」

 なぜか、そこで一旦言葉を句切る。

 その先を続けて良いものかどうか、迷っている様子だ。

「どうか、したんですか?」 

 不意に、私にも悪い予感が走る。

「どうぞ、本当のことを教えてください」

 私の言葉に、その人は改めて最初から話を始めた。

「本当に、急な出来事だったんです。

 信号が変わる瞬間に、もの凄いスピードであのトラックが走ってきて。

 それで、ハンドルを切り損ねた様で、一直線であのコンビニに突っ込んでいったんです。

 丁度、Mさんは交差点を渡り終えてコンビニの前に立っていらっしゃいました。

 普通の人でも、あっという間の出来事でしたが、Mさんは目が不自由でいらしたので、トラック交差点を曲がり損ねたことも解らなかったのだと思うんです。

 突っ込んでくるトラックから全く逃げようとなさらなかった。

 その時です。

 あの黒い犬が、凄い勢いでMさんに体当たりして。

 Mさんは、もんどり打って倒れて。

 お陰で間一髪、トラックからは逃れることが出来たんですが、その、体当たりした犬の方は。」

 私は、その瞬間が目に浮かぶ様だった。

 盲導犬は、危険に気がついたとき、立ち止まったりして主人に危険を知らせるのであるが、トラックはどんどん近づいてくる。

 まろんが急に引っ張っても制止されるだろうし、吠えて知らせていては間に合わない。

 咄嗟に、まろんは、渾身の力を込めてジャンプし、Mさんの上半身に飛びかかる。

 突然、飛びかかられてバランスを崩したMさんは、後に倒れ込み、ハーネスからも手を離す。

 一方、まろんの方は、Mさんを押し反動で跳ね返り、突っ込んでくるトラックの前に飛び出してしまう。

 そして、そのまま、トラックは。


「でも、私は、確かに、まろんを」

 私は、今の話を否定しようとしたが、言葉が出てこなかった。

 走っているまろんの姿を、しっかりとこの目で見ているのに、何故か今の話が正しいという事を確信してしまったからである。

 私が、言葉を継げずに呆然としている間に、話をしてくれた人は、まだ、事情聴取の続きがありますのでと、その場を去っていた。

「まろん、そこまでして、お前は」

 そう呟いたとき、私は何かの気配を感じて、トラックの突っ込んでいるコンビニの方を見た。

 ぐちゃぐちゃになった店内から、一瞬、優しい視線を感じ、パタパタという音が聞こえた気がした。

 気付けば、私はボロボロと涙を流していた。


 その夜、現場検証が終わり、コンビニからトラックが引き出される現場に、私は立ち会っていた。

 どうか見間違いであって欲しいという私の願いを他所に、トラックコンビニレジ台の間から、血まみれで原型と留めない黒い犬が発見された。

 形は留めていないがその犬の付けているハーネスは、それが紛れもなくまろんである事を告げていた。

 再び涙を流して呆然とする私の隣で、その場で手を合わせるS巡査は語りかける様に言った。

「まろん、偉かったな。

 おまえのお陰で、Mさんは軽い怪我ですんだそうだよ。

 よく頑張った。

 みんな、お前の事をきっと忘れないぞ」


 その後、再建されたコンビニの前に、近所の住民の寄付で作られた小さなまろんの像が建てられた。

 その像には、お供えのお菓子や花が絶えることなかった。

 

 ところで、軽傷で済んだもののMさんの落ち込み様は尋常ではなかった。

 すっかり寝込んでしまい、食べ物もあまり受け付けなくなって、とうとう、病院入院したと聞いた。

 確かにあれほど心を通じ合っていたまろんが、突然になくなったのであるから、無理もないところではあるが、果たしてもう一度元気なMさんの姿は見られるのだろうかと、近所の者は皆心配していた。

 ところが、数週間後。

 私は、黒いラブラドールを連れたMさんにばったりと出会った。

「Mさん!もう、具合は良いんですか?」

 Mさんは、笑って答えた。

「ご心配おかけしました。

 もうすっかり大丈夫です。」

 しかし、私が驚いたのは、Mさんの回復ぶりだけではなかった。

「そ、その犬は?」

 私の問いに、更に顔を綻ばせてMさんが言う。

「そうなんですよ。

 普通盲導犬ユーザーに続けてなれる事は少ないんですよ。

 順番待ちをされている方が、大勢いますからね。

 ところが、今回は偶然偶然が重なりましてね。

 いや、このお話は長くなりますので、また、改めて。

 それでは、失礼します。」

「あ、あっ、どうぞ、お気を付けて」

 去っていくMさんとラブラドールの姿を、私は呆然と見送っていた。

 が、次の瞬間、私は自分の目を疑う事になる。

 盲導犬は、辺りに注意をそらす様な行動はしない様、訓練されている。

 それに、Mさんの新しい犬とは、今回が初対面である。

 だが、確かに私は見たのである。

 あの黒いラブラドールリトリバーが、そっと私の方を振り返り、パタパタとしっぽを振る所を。

                          ~Fin

盲導犬不合格物語 (学研のノンフィクション)

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[] 反省 15:47  反省 - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク -  反省 - ことだまり  反省 - ことだまり のブックマークコメント

 蛇足が多すぎ。

 何より、恐くない^^; 

*1:画像提供先:EyesPic http://eyes-art.com/pic/

otama-nekootama-neko2007/07/29 10:49…まろん。何度読んでも胸がつまります。

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