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2007-08-22 (水)

電車

[][] 助っ人 14:49  助っ人 - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク -  助っ人 - ことだまり  助っ人 - ことだまり のブックマークコメント

 高速でホームに突っ込んでくる通過電車をじっと見ていたら、急にふらふらとその前に飛び出したくなった。

 あっ、と思って留まろうとするのだが、もう、体の自由が利かない。

 電車がぐんぐんと迫っている。

 運転手も俺に気付いたのか警笛を鳴らす。

 助けてくれ、俺も止りたいんだ!

 だが、声も出ない。

 そのまま、線路に飛び込もうとした瞬間。

 グッと、誰かに襟首をつかまれ、引き戻された。

 その前を、もの凄い勢いで電車が通過していく。

 ぺたりとしゃがんだまま、俺は何が起こったのか、訳が解らぬままでいた。

 心臓バクバクしていた。

 付近の人も、俺の行動がおかしかったことに気付いてはいるようだが、だれも俺に声をかけようとはしなかった。


「ちっ」

 不意に、舌打ちする音が聞こえた。

 音がした方向を見ると、向かいのホームに真っ黒なマントを着て、鎌を持った人物がその場を立ち去ろうとしていた。

「え、し、死神?」

 あまりにベタな展開に俺は、二の句が継げなかった。

 ごつっ!

「いてッ!」

 今度は、誰かに急に頭を殴られた。

 慌てて後ろを振り返ると、そこには十数年前に死んだじいさんが、これまでに見たことのないくらいの怖い顔で立っていた。

「じいさん」

 俺がことばを発した瞬間、じいさんはそのまますっと消えた。

「やべぇ、見透かされてらぁ」

 俺は、この所、自分が経営している小さな会社資金繰りのことで悩んでいた。

 自分の生命保険を見て、冗談半分にこの保険金があれば、なんとかなりそうだ等とも考えていた。

 恐らく死神もそれに付け入ろうとしたのだろう。

 冗談にしても馬鹿なことは考えちゃいかんと言うことか。

 俺は立ち上がると、ホームに滑り込んできた次の電車に乗り込んだ。


 その日、俺は会社連中資金繰りが厳しいことを打ち明け、再建にむけての協力を求めた。

 みんなが理解を示してくれたことで、この先、どうなるかは解らないが、少なくとも一人で悩むことは無さそうだった。

 そして、その週末、俺は家族を連れて静岡のじいさんの墓参りに出掛けた。

 その道すがら。

 高速を飛ばしながら、俺はぼんやりと考えていた。

 あの死神は、どう見ても西洋スタイルだった。

 死神に魅入られたにしても、何故、西洋の死神だったのか?

 そう言えば、何かのニュースで、日本自殺者数が先進国で第一位だという記事を読んだ覚えがある。

 自殺者数は、1998年から9年連続で3万人を超えていると書いてあった。

 減少している交通事故死者数の数倍になると言うことだ。

 もしかすると、日本古来の死神だけでは捌ききれなくなって。

「まさかね。」

 俺は一人で苦笑いすると、出過ぎていたスピードを落とした。

「ちっ」

 その時、もう一度、あの舌打ちを聞いた気がしたが、俺は気にせず、子供達に静岡に着いたら食べたいものがあるかと聞いたのだった。

                            ~Fin


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