Hatena::Groupc-u

ことだまり このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-05-27 (木)

[]夏の夜*1 10:06 夏の夜*1 - ことだまり を含むブックマーク はてなブックマーク - 夏の夜*1 - ことだまり 夏の夜*1 - ことだまり のブックマークコメント

「Cola Shock」

その商品を手にとったのは、ただの気まぐれだった。

強いて言えば、ドイツのデュッセルドルフで飲んだアルトビールを連想したからかも。

風呂上りに家族が寝静まった居間で、「Cola Shock」を開けて一口飲む。

瞬間、その味と炭酸の弾ける感じが、不意にボクにあの夏の日の一瞬を思い出させた。

ただ、その一瞬を説明するには、少し長い話に付き合ってもらうことになる。


もう、ン十年も前の話。ボクが高校生の頃。


当時は、「肉食系」だの「草食系」だのという言葉は当然無かったが、言わばボクは「草食系高校生」、まあ、当時、普通に言えば「ダサイ奴」であった。

それでも、人並みに好きな子がいたりしたのだが、当然、告白など出来るはずもなく、ただ漫然と高校生活を送っていた。

その中で、一番時間を割いていたのは、部活であった。

その夏。

部活の合宿で、ボクらはある島でキャンプをしていた。

その日。

一週間の合宿の中日で、丁度だれて来る頃だったせいも有り、昼間、いくつかのミスが連発した。

幸い、事故や怪我人は出なかったが、綱紀粛正のため、夕食後、自由時間にボクらは全員集められ、3年生から説教を食らった。

小一時間、説教された後、やっと開放かと思ったら、副部長のテヅカさんがボクらの方をみて言い放つ。

「2年生は、そのまま残れ!」

まただ。

ボクらは思った。


ボクらの入部当時、一番目立っていた2年生がテヅカさんだった。

明るく快活で、部の中で一番輝いて見えた。

ボクらへの指導も熱心だったが、遊びにも熱心で、放課後、卓球場やボーリング場に連れていってくれた。

喫茶店や食堂では奢ってくれたりもした。

当時の3年生にも評判がよく、何人もの先輩から可愛がられていたが、だからと言って媚びるわけではなく、言うべき時には上級生にもクッてかかった。

だから、当然、ボクらは次期の部長はテヅカさんだと思っていた。

本人もそう思っていたのだと思う。

だが、予想に反し、部長になったは地味で無骨なクマイさんだった。

ボクらは、なんでだろうと思った。

その理由は、すぐわかった。

副部長になったテヅカさんは、人が変わった。


「だいたい、お前らがちゃんと指導しないから1年生がつけあがるんだ」

違うだろ。

その場に居た2年生5人全員が思っていた。

今日のミスは1年がつけあがったとかいう問題ではない。

確かに、きっかけは1年生のユミちゃんのミスであったが、それで彼女を責めるのは筋違いである。

なぜなら、ユミちゃんにいい加減な指示をしたのは、誰あろうテヅカさん本人だからだ。

しかも、傍目から見ても、テヅカさんはユミちゃんに相当入れ込んでいた。

テヅカさんのお気に入りなのだ。

なので、今日のことはボクらの指導力の所為にして、ユミちゃんは悪くない、と言いたいのかも知れない。

もっとも、ユミちゃん自身は、テヅカさんの事を何とも思っていない、いや、むしろ若干、迷惑がっている様子があるのだが、テヅカさんはそんな事眼中に無いようだ。

「とにかく、今日のことは、俺がクマイにもちゃんと言っておくから、お前らも明日からは、ちゃんとするように。

 わかったな!」

何をちゃんとしろと言うのか、全く解らなかったが、とまれ、はた迷惑なとばっちりの説教は、自由時間が終わる頃になってやっと終わった。


ボクらはもうぐったりしてしまって、文句をいう気力もなく、それぞれのテントに戻った。

テントは、基本、1年から3年までが一人づつ3人に一張割り当てられている。

ボクのテントは、部長のクマイさんと一年のテルヤが一緒だ。

テントに入ろうとすると、丁度、クマイさんがテントから出てきた。

クマイさんはボクを見て、ちょっと、同情したような顔になった。

「まあ、テヅカのいう事は、あまり、気にするな。

 ケガや事故がなかったのは、お前らがフォローしてくれたおかげだからな」

「はい、ありがとうございます。」

ボクは、無表情のまま、機械的に返事をした。

クマイさんは、分かっている。

ボクらの予想以上に、いろんな事を理解し、適切に判断している。

今になって前の3年生がクマイさんを部長に選んだ訳が分かった。

だが、クマイさんはテヅカさんに何も言わない。

それを知ってかテヅカさんは、すき放題やっている。

その意味では、ボクらにとってはクマイさんも同罪のように思っていた。

「明日も早いぞ。

 早くねろ」

そう言って、ボクの方をポンと叩くと、クマイさんはどこかに歩いていった。

手にスナック菓子を持ち、後ろのポケットが膨らんでいるのを見ると、今夜も3年生同士でどこかで集まるのだろう。

きっと、その場で、テヅカさんはボクらに説教した時のことを、得意げに面白おかしく話すのだろう。

それを想像してしまって、ちょっと嫌な気分のまま、ボクはテントに入った。


「お疲れ様です」

テントの中では、テルヤが正座して待っていた。

「なんだよ、正座なんてしなくていいよ」

「でも、俺らのためにテヅカさんに説教されて」

そう言ってボクを見るテルヤの目が、ちょっと潤んでいる。

こいつは、1年の中でもバカが付くほどまっすぐな奴なので、余計に気にしているのだろう。

テルヤの純粋さを見ていると、去年のボクらはどうだったんだろうと、ちょっと反省してしまうほどだ。

「ばか、違うよ。テヅカの2年いじめだから気にすんな」

「そうなんですよねぇ」

テルヤは腕組みして、しみじみという。

「え?」

「いや、テヅカさんって、なんだか本当に2年生の皆さんを目の敵にしているように見えるんですよねぇ」

いやぁ、人一倍お人好しで真っ直ぐ君のテルヤにまでそう見えているのなら、テヅカさんのボクらに対してのいじめは相当なもんだなと、ボクは苦笑した。

「まあ、いつものことだから。

 明日も早いし、さっさと寝ようぜ。

 クマイさんは、今夜も夜中まで戻らないだろ」

「はい、わかりました」

テルヤがそう返事して、ボクらが就寝の準備を始めたとき

「おい、タムラ、起きてるか?」

そう声がして、テントの入口が開いた。

ハヤシバだった。

「おう、もう、寝るところ。

 どうかしたか?」

ボクが答えると、ハヤシバは後ろから何かを差し出した。

「こういう物が手に入ったんだけど、どう?」

それは緑色に黄色いラベルのボトルだった。

ボクは苦笑した。

ボクは酒が飲めなかった。

いや、味になじめないので、真面目に飲んだことが無い、というのが正しいのか。

やめとくよ、と答えようとしたとき

「うわ、カティーサークじゃないですか!

 どこから持ってきたんですか?」

そう声を上げたのは、テルヤだった。

「おう、テルヤ。

 解るか?

 スコッチだぞ、スコッチ」

「はい!沖縄のじいちゃんの家で飲みました。

 癖がなくて飲みやすいんですよね、これ」

おいおい、さっきまでの真面目で純粋なテルヤくんはどうした。

「わかってるなぁ、テルヤ。

 お前もこい。

 なあ、タムラも行こうぜ?」

そう言って、ハヤシバがボクを見た。

しかたない、付き合うか。

ボクはしぶしぶ、立ち上がった。


3年生は、山側の見晴台のところで集まっている。

ハヤシバの情報を元に、ボクらは反対の海辺に向かった。

そこには、先に2年生のヤマガミ、オーシバ、ミムラが集まっていた。

「おーい、来たぞ、テルヤも連れてきた」

「おせーよ。

 折角、これ買ってきたのに、温くなっちまうじゃねーか」

そう言ってミムラが、コーラの缶を見せる。

「ワリィ、ワリィ。ブツの入手に手間取ってな。

 あと、タムラがゴチャゴチャいうから」

いや、ボクのせいか。

って言うか、ゴチャゴチャ言ってないし。

「まあ、とりあえず、乾杯と行きましょう」

ミムラが手にしたコーラの缶をプシュッと開けた。

「乾杯はいいけど、どうやって乾杯するんだよー」

オーシバが文句をいう。

確かに、コップも何も無い。

「しまったなぁ、備品から紙コップかっぱらって来るんだった」

ハヤシバが悔しそうに言う。

「この中に直接入れちゃえば?」

日頃はおとなしいヤマガミが、大胆なことをいう。

「そっか!その手があるか」

ハヤシバの声に

「だけど、2年だけだと思ったから、コーラ、5本しかないぜ」

ミムラが反論する。

「あー、ボク、いいから

 テルヤにやってよ」

ボクがそう言うと皆がいっせいにボクを見る。

「なんだよぉ、タムラ。

 この期に及んで、自分だけよゐこぶって見せるってか?」

ハヤシバがちょっと凄んで見せる。

「いや、先輩っ!俺はちょっとだけ貰えばいいっすから!」

テルヤがボクを見て言う。

いや、こいつ、そのつぶらな瞳が潤んでる。

なんなんだ。

「いや、そうじゃなくて、ボク、飲めないんだ」

「えーっ?」

「そうなのぉ?」

いや、みんな、高校生だろっ。

どんだけ飲んでるんだ。

ひとしきりのブーイングの後、とりあえずボク以外でのむということで決着した。

「じゃあさ、これに入れる分、コーラを減らさなきゃいけないから、それをタムラに飲んでもらえば?」

オーシバが余計なことを言い出す。

「ああ、そりゃいいな

 どの位減らせばいいのかな?」

「あ、じいちゃんが、つーひんがーがうまい、とか言ってましたよ」

「つーひんがー?」

「こう、指2本分くらい酒を入れると旨いんだそうです」

「なるほど、じゃあ、この缶だと、五分の一位かなぁ」

「よしっ!タムラ!

 みんなのコーラ、5分の一づつ飲んでくれっ!」

「えっ・・・えーーーーーーっ!」

かくして、ボクは、何故か皆より先にコーラ一気をすることになる。


ボクが飲んで開いた隙間に、ドボドボとカティーサークを流し込む。

氷もなく、かき混ぜるわけでもない。

今考えると、かなりすごい飲み方である。

みんなの「コークハイ」が完成する頃、五分の一の五人分できっちりコーラ1本を飲み終えたボクはすっかり炭酸でお腹がパンパンであった。

「じゃあ、改めて、かんぱーい!」

やっと出来上がったコークハイを片手に、ハヤシバが声を出す。

ボクはコーラ替わりにそのへんで拾った木片を持たされていた。

ハヤシバの声とともに、皆一斉にコーラの缶を口に運ぶ。

一瞬の沈黙ののち。

「ウメー」

「おー」

「ちょっと濃いなぁ」

「きくーっ!」

「・・・げほっ、ゲホゲホゲホ」

「・・・うすっ」

それぞれの反応が極端に違うのは、高校生だからか。

「やっぱ、スコッチは違うねー」

「いや、コーラの味しかしねー」

「俺はビールの方がいいなぁ」

「先輩、もう少し足してもらっていいっすか?」

ひとしきり味についての感想があり、その後、テヅカさんについての愚痴があって、やがて話題は女子の事になる。


「おれさー、ユミちゃんっていいって思うんだよねー」

少しトロンとした目つきで、ヤマガミが言う。

「えー?なんだか、ボーッとしてる感じだけど?」

とりあえず、なんでもイチャモンを付けるハヤシバが返す。

「でもさ、マジメで結構気も利くんだよね」

ユミちゃんと同じ班のミムラがヤマガミをフォローする。

「ああ見えて、成績も良いらしいよ?

 この前の期末テスト、学年で10番位だったらしい」

更に、学内情報通のオーシバが余計な情報を付け加える。

「でしょ?なにか教えてもすぐ理解するんだよねー

 教えがいがあるというか」

「おー、ヤマガミ先生、ぞっこんじゃないっすか!」

「いやー、ぞっこん、とか、そういうんじゃないけど」

そういいつつも、ヤマガミは真っ赤な顔で下を向く。

「なんだよー

 かなりマジだなぁ」

ハヤシバは、ボクの方を振り返って聞く。

「タムラはどう思う?」

ドキッとした。

実は、素振りにも出していなかったが、ボクもユミちゃんが気になっていた。

いや、正確に言えば、ユミちゃんと一番親密なのは自分だという自信があった。

あれは、1ヶ月ほど前のことだった。


この合宿に参加する前に、1年の部員は予備合宿と称して、土日を校内で過ごす。

ボクらの合宿は、宿舎やバンガローに頼らないテント生活中心のまさにキャンプになる。

なので、ロープの結び方を始め、テントの貼り方、竈の作り方など、アウトドアの基本をしっかりと身につける必要がある。

1年生は、入部当初から練習を重ねてきてはいるのだが、この予備合宿で一通り予行演習を行い、完全に身につけるのだ。

このとき、1年生と一緒に寝泊まりして指導するのが、2年生の仕事である。

ただし、基本は1年生に自分でやらせることなので、2年は交代で参加する事になる。

ボクの担当は、土曜の夕飯後から日曜午前中までだった。

自宅で夕食を終えて、夜の7時頃学校に向かうと、丁度、夕方まで担当のオーシバが学校から出てきた。

「よう、おつかれ」

「おお、大変だったよ」

「どうした、今年は覚えが悪いか?」

「いや、そうじゃなくてさ」

オーシバの話によれば、途中からテヅカさんが乱入してきて大変だったというのだ。

例年、予備合宿に3年生や卒業したOBが顔をだすことはママある。

土曜の午前中は、普通に授業をやっている訳だから、誰も見にこないという事はまずない。

だが、それはあくまで「様子見」あるいはOBの場合は「差し入れ」を持っての「陣中見舞い」であり、さっさと引き上げるのが通例だ。

そりゃ、そうだろう。

予備合宿は、1年を指導する場であると同時に、2年生を指導者として教育する場でもあるのだから。

なのに、テヅカさんは、ずっとみんなの作業に張り付き、ああでもない、こうでもないと口を出した挙句、個人指導だ、と言いながらそれこそユミちゃん達、1年女子に手取り足取り教えようとしたらしい。

丁度、その場にクマイさんとOBの前部長がやってきたので、そのまましぶしぶ帰ったが、すっかりスケジュールが狂ってしまったというのである。

「ひどいな」

ボクが思わず呟くと、

「まったく、疲れたよ

 もう、帰って寝る」

オーシバもそう呟いて、ボクに手を振るとトボトボと帰っていった。

そのオーシバの後ろ姿を見送ってから、学校からテント設営地に指定された第二グランドに行くと、丁度、ハヤシバが飯を食っている所だった。

ボクはハヤシバに近づきながら声をかけた。

「大変だったって?」

その声に、7人いる1年達がボクに挨拶しながら立ち上がろうとしたが、ハヤシバがそれを制して、ボクの方に歩いてきた。

「大変どころじゃなかったよ。

 おかげで夕食のスケジュールが2時間も遅れてさ。

 この後、片付ける事考えると、夜の予定が全部パーだ。」

「まあ、ぼやくな。

 明日の午前中にやればいいさ。」

「俺は明日の朝で帰っちまうけど、大丈夫か?」

「うん、朝になればヤマガミがくるから。」

「そっか、すまんな」

という事でボクらは、今日の夜に予定していた訓練を明日に回すことにして、さっさと食事の後片付けをした後、もう寝ることにした。

時間的には、まだ夜9時を過ぎたばかり。

寝るには早すぎる時間だが、本番の合宿でも就寝時間は10時だし、皆、疲れている様なので良いだろうと言うことになった。

「よし、じゃあ、体育館に行くぞ」

ハヤシバの声で、ボクらは、身の回りのものと貴重品を持って、ぞろぞろと体育館に移動を始める。

当然、本番はテントで寝るのだが、学校から予備合宿の宿舎は体育館を使うよう言われていた。

街中の高校ゆえ、学校の外は歓楽街も近く、夜になっても人通りがある。

グランドの周囲には一応フェンスがあるが、当時はホンの形だけだったので、酔っぱらいがふざけて侵入しようと思えば、いくらでも入ってこられる。

「安全面を考慮して」

というのが、学校の言い分だったが、真相はテジマさん達が一年の頃、テントで大騒ぎして近所からクレームが来たという事らしい。


夜の体育館のなかは、ひんやりとして静まり返っていた。

ハヤシバが天井灯の電源を入れると、ジジジジと音がして天井の水銀灯がぼんやりと光りだす。

まだ薄暗い水銀灯の光のなかで、ハヤシバが指示を出す。

「じゃあ、女子はステージの上、男子は手前の入口付近を使ってくれ。

 洗面、手洗いの時間を20分取るから、さっさと済まして戻るように。

 時間になると施錠しちゃうから入れなくなるぞ」

その声にみんなは動き出し、支持された場所に各自用意されてる寝袋を置き、寝床を作り出す。

 一年生の女子2人は、ステージの上、奥の方でみんなからは見えにくいところに陣取ったようだ。

「ハヤシバさん、もし、遅れて締め出された時は、どうすればいいですか?」

1年生のお調子者、マトバがハヤシバに聞いた。

ハヤシバは、ゆっくりとマトバを振り返る。

「マトバくん、この隣の理科教室、人体標本があるよね。

 あれさ、献体って書いてあるでしょ?

 献体ってさ、本物の人骨って事なんだよ。

 噂では明治時代のここの校長のものでね、それはそれは厳しい人だったらしく、今もね、用もなく校内を彷徨いている人がいると来るらしいんだよね。

 指導しにさ。」

マトバは、急にそわそわし始めると

「いや、俺、その、さっさと顔洗ってきます」

と言い残し、走っていった。

「可愛いもんだね」

その姿を見て、ハヤシバが言う。

だが、その後ろで、ボクが必死に笑いを堪えているのをハヤシバは知らない。

なぜって、その話で一番ビビっていたのは、去年のハヤシバだった事をボクは知っているからだ。

ちなみに、少しフォローをすると、理科室の標本に献体と書いてあり、本物の人骨なのは本当だ。

ただし、校長ものではなく、一般の有志の方の物らしい。

まあ、そういう七不思議は学校につきものということだ。

洗面、手洗いからマトバを含めて全員が戻ったのを確認して、ハヤシバが体育館の施錠する。

そして、それぞれが寝る準備がすんだのを確認して、ボクが体育館の水銀燈を消した。

最初は真っ暗に感じるが、目が慣れてくると外から入ってくる光で体育館のなかは結構な明るさである。

窓の暗幕を閉めればもっと暗くなるのだが、安全のためという理由で、暗幕の使用は認められていなかった。

なので、おとなしく寝袋に入ってみたものの、流石にボクは寝付けなかった。

しばらくもぞもぞしていたが、だんだん我慢ができなくなってハヤシバの方を見ると、驚いたことにもう寝息を立てている。

いや、それだけではない。

気付けば、他の1年生もぐっすりと寝入っている様子だ。

みんな、余程疲れたに違いない。

「テヅカさん、スゴすぎだろう・・・」

ボクは、そう呟くと、みんなを起こさないようそっと起きだし、みんなから離れている方の扉の鍵を開けると、框に腰を下ろした。

腕時計をみれば、まだ、10時過ぎ。

街の歓楽街からは、かすかに賑やかな声が聞こえてくる。

土曜の週末、盛り上がっている人も多いのだろう。

何かの時、親父が

「小さな町だが、人口一人当たりの飲み屋の数は日本一なんだ」

と自慢していたのを聞いたことがある。

「どんなふるさと自慢だ」

ボクがそうつぶやいたとき

「タムラさん」

後ろから、ボクを呼ぶ声がした。

驚いて振り返ると、そこにユミちゃんが立っていた。

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

ボクが慌てて言うと、彼女は首を振った。

「いえ、私も寝付けなくて。

 そしたら、タムラさんが外に出るのが見えたので、そっとついてきたんです。

 あの、隣に座ってもいいですか?」

「あ?ああ、どうぞどうぞどうぞ」

そう言われて慌ててボクは横にずれる。

「失礼します」

ユミちゃんが座った瞬間、ふわりと彼女の香りがあたりに漂う。

その香りに、ボクはちょっとどぎまぎしてしまう。

「ど、どうだった今日は?

 大変だった?」

そのドキドキを悟られまいと、慌てて話をつなぐ。

「はぁ」

ユミちゃんは、ちょっと溜息のような声を出した後、ボクの方を向いた。

「タムラさん」

「な、なぁに?」

急に自分の名前を呼ばれて、とりあえず焦るボク。

「テヅカさんって、どうにかなりませんか?」

「え」

いきなりの展開に言葉が継げないボク。

「親切で教えてくださっているとは思うんですけど、なんだかちょっと、しつこくて」

「う、うん」

「その、そんな事ないと思うんですけど、陰湿な感じもして」

いや、そんな事、十分ある。

ボクは、こころの中で返事する。

「それに、気がつくといつも私の方を見ている気がして、ちょっと怖いんです。」

「そ、そうなの?」

そうだよ!やっぱりユミちゃんもそう思っているんだ。

「悪い人じゃない・・・と思うんですけどねぇ」

いや、悪い人だ!と叫びたい衝動をこらえて、

「そうだねぇ。ただ、自分中心で動いている人だからねぇ

 周りの人の気持は、考えてないのかもねぇ」

と、軽く同意してみる。

「良かった」

急にユミちゃんが、ボクを見てにっこり笑った。

何故か、ボクは顔が急に熱くなる。

「私だけかと思ったんですよ。

 テジマさんのこと、そういう風に思っているの。」

「他の1年はどうなの?」

「わからないんです」

ユミちゃんは、ちょっと俯き加減で答える。

「みんな、大人しいから、あんまり先輩のこととか話さないんですよ」

あぁ、そうかも知れない。

男ばかりでみんな口性ないボクら2年生と比べると、確かに今年の1年は男女ともマジメでおとなしい感じがしていた。

「そっかぁ」

そう答えた後に言葉が継げず、ボクは黙ってしまう。

ユミちゃんも、俯いたまま黙っている。

何か言ってあげた方がいいのだろうが、なにせそういう事に疎いボクである。

向こうでガーガー寝ているハヤシバ辺りならうまいこと言うのだろうが、だからと言って、今、奴を起こしに行く気にはならない。

どうしようかとボクが迷っていると、ユミちゃんがポツリと呟く。

「辞めちゃおうかなぁ」

よく見ると、ユミちゃんはちょっと涙を浮かべているような。

ボクはなんだかパニックになってそして。

「大丈夫!ボクが守ってやるよ!」

「え?」

いや、ボクは何を言っているんだ?

ユミちゃんも、ちょっと呆気に取られた顔でボクをみている。

「あ、いや、守ってやると言うのは大げさだけれど、ボクが間に入って上げる。

 テジマさん、ちょっと自分勝手だけど、言って分からない人じゃないから。

 一応、一年間付き合ってきたし、いい所もいっぱいあるから」

更にワケが分からない。

なんでテジマさんを養護するような発言をしているんだ?

これじゃ、逆にユミちゃんに

「ありがとうございます」

突然、ユミちゃんはにっこり笑ってぺこりと頭を下げた。

「タムラさんに、相談して良かったです。

 おかげですっきりしました。」

「そ、そう?」

「はい!

 そうですよね。

 副部長さんなんだから、テジマさんにもいい所一杯あるんですよね。

 それをなんとか伝えてくれようとしてるんですよね」

「う、うん、まあ、そうかな」

いやー、そうじゃないと思うんだが。

どこでこうなってしまったのか。

「私ももっと頑張ります。

 でも、困ったときは、タムラさんに相談しますから、助けてくださいね」

「お、おう、まかしとけ!」

何、胸張ってるんだボクは。

と焦っているボクを尻目に、ユミちゃんは突然立ち上がると伸びをした。

「うーんっと!」

そして、ボクを振り返って言った。

「なんだか、すっきりしたらお腹空きました。ラーメンとか食べたいですね」

「え、ラーメン?」

唐突な展開に戸惑ボク。

だが、次の瞬間

グーッ

盛大にボクのお腹が鳴った。

一瞬の間の後、ボクとユミちゃんは大爆笑になった。

それから、ユミちゃんとボクは、延々と取止めのない話で盛り上がった。

ユミちゃんは良く笑い、ボクはたぶん、こんなに長い時間、女の子と話をしたのは、生涯で初めてだと思った。

夜中を過ぎて、ユミちゃんが床に就いた後も、ボクは一人で余韻を味わっていた。

きっと誰かがその時のボクの顔を見ると、とんでもなくニヤついていたに違いない。

その日以降、ボクとユミちゃんは、2~3日に一回、学校帰りに喫茶店で待ち合わせて色々話をするようになった。

携帯のない時代、相手の家に電話をする、というのは恐ろしく勇気のいることだった。

なので、この喫茶店での会話が、唯一二人だけになれる時間だった。

もちろん、その事はふたりだけの秘密だった。

だから。

みんなの話がユミちゃんの事になったとき、ボクはちょっとした優越感と共にその話を聞いていたのである。


「おい、タムラ。

 何ニヤケてるんだよ」

ハヤシバに言われてハッとする。

そうだ、今は、そんな思い出に浸る時じゃない。

「ははん、お前もユミに気があるんだな?」

ハヤシバの言葉に、

「い、いや、違うよ!

 ちょっと、コーラ腹でボーッとしてたんだよ!」

ワケの分からない言い訳で返す。

「何だそりゃ?

 とにかく、お前はユミをどう思ってるかっていう話だよ」

いや、勝手にユミちゃんを呼び捨てにするな。

そう思いつつ、ボクは当たり障りの無い答えを返す。

「そうだなぁ。

 いい子ではあるよね。

 真面目だし。

 笑うとちょっと可愛いし」

「笑うと・・・って、お前、いつ笑うところ見たんだよ」

シマッタ。

確かにユミちゃんは、部室では控えめでそんなにはしゃがない。

「いや、えっと、それはだなぁ」

「いつだよ、ええ?

 おー?なんだか、お前、顔が赤くなってないか?」

やばい、本当だ。

ちょっと火照ってきている。

「そ、そりゃ、コークハイを・・・」

「何いってんだ?

 お前、アルコール入ってないじゃないか!

 怪しいぞぉ?」

やばい。

ボクのうっかりした発言で、とうとう二人の仲が。

焦りまくっているボクの耳に、突然、思いがけない言葉が飛び込んできた。

「ユミねぇ…ありゃ、食わせ物ですよ」

「え?」

皆、一斉に声がした方を見る。

そこには、コークハイを、いや、コークハイはとうに飲み干し、空き缶にカティサークのストレートを波々とついで飲んでいるテルヤがいた。

「どういう事?」

最初にユミちゃんファンを自称したヤマガミが、ちょっとキツめに問いかける。

「いや、言った通りっすよ。」

そういうと、テルヤはグビッとスコッチを一口煽り、こっちにふらふらと歩いてくる。

そして、オーシバに向かって言った。

「オーシバさん。

 ユミが成績10位って、言ってたじゃないっすか。

 その中で、ほぼ満点の教科がいくつあったか、知ってます?」

いやぁ、それはいくらなんでも。

「うむ、現国 98、数I 92 現社 95 古文 91。

 まあ、満点に近いかどうかは微妙だが、生物 88があるな」

おい、知っているのか。

「流石っすね。

 その教科の担任に共通していること、何か分かります?」

「共通点?」

「・・・みんな、男?」

ヤマガミがぼそっと答える。

「正解です。そーゆーことっすよ」

そう言って、テルヤはにやりと笑う。

「なんだよ、そーゆー事って」

つい語気を荒げてボクが言う。

「不正を・・・してるってこと?」

ミムラが首をかしげながら言った言葉に

「うーん。」

テルヤが首をかしげる。

「不正…じゃあ、ないっすね。

 テクニックれすよ。」

なんだかテルヤの語尾が怪しい。

「テクニックってなんだよ」

ハヤシバの問に

「だからぁ、テクにーっく。

 男のセンセ、メロメロの」

「な」

ユミちゃんを酷く言われて、ちょっと気分を害したボクが前に出ようとしたとき。

「てめ、もったいぶってるんじゃねーぞ!」

その前に飛び出して、テルヤを羽交い締めにしたのは、ミムラだった。

「もっと、ハッキリ言え!ハッキリと!!」

「ノノノノ、ノー!、ノー!!

 言う、言う、言いますってば!!」

テルヤが思わず、タップする。

「手間をかけさせるな」

ミムラが吐き捨てるように言って、テルヤを離す。

「酷いなぁ、もう」

ブツブツ言いながら、テルヤが首をさすっている。

「で、テクニックってなんだよ」

改めてハヤシバが聞く。

「だから、さっきタムラさんが言っていたでしょ?」

「え?」

いきなりボクの名前が出て、ボクは虚をつかれる。

「笑顔ですよ。え、が、お。」

そう言って、テルヤはボクを見てにっこり笑った。

「テメー、また、そんなわけのわからんことを」

ミムラがキレて、また立ち上がる。

「いやいやいや、説明します、しますってば。」

慌ててテルヤが後ずさる。

「もう、全く乱暴なんだから」

ぶつぶつと呟くテルヤに

「なんか言ったか?」

ミムラが凄むと

「いえ、何でも無いっす」

そこで、えへんと一つ咳払いをしたテルヤは、説明を始める。


少し酔いが回ってろれつが回らなくなっているテルヤの説明を要約するとこういう事らしい。

まず、ユミちゃんは、相談があると各教科の担任に声を掛ける。

最初は、校内で普通の相談、例えばこの問題が分からないとか、この時の授業が分からないとか。


~途中です~

*1:最近、mixi復活、そこでの書きなぐりについたあたたかいコメントから思い出したこと。まあ、いろいろ特定されないよう8割フィクションですけど

ゲスト



トラックバック - http://c-u.g.hatena.ne.jp/puyop/20100527