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2010-10-10 (日)

[走書き]リサイクルショップ その2

 ~「リサイクルショップ」のつづき~


「じゃあ、ちょっとかみさん相談して、また電話します」

そう言って俺が電話を切ると、少し離れた台所で洗い物をしていたかみさんが、手を拭きながらやってきた。

「どうだったの?」

「うん、まあ、そのぉ、訳ありだと言えば、訳ありかなぁ」

俺は、電話の相手、ウォシュレットを買ったリサイクルショップ店長の様子をかいつまんで説明した。


 夜中に泣くウォシュレットの事で電話した俺の声は、最初からやや怒気をはらんでいた。

 心霊やら超常現象やらを信じている訳ではないが、目の前でしくしくと泣くウォシュレットを見せつけられれば、だれだってこんなもの売りつけやがってと腹がたつのではないだろうか?

 怒りに任せた俺の電話淡々とうけていた店長は、静かにこう答えた。

「それは大変お困りと思います。

 お怒りになる気持ちも、重々理解しておりますが、ちょっとだけ、冷静になって私のおはなしを聞いて頂けますか?」

 どちらかと言えば、そんな事は知らぬ存ぜぬで通してくると思っていた俺は、その店長言葉にちょっと虚を突かれた格好になり

「わかった」

と素直に返事をしてしまった。

 店長の話によれば、そう多くはないがこういう事はたまにあるのだそうだ。

 そこから店長は、淡々と説明を始めた。


 商品は、売る前にはきちんと掃除し、修理できるところは修理し、難点は明示して、売る前にきちんと説明しているが、やっぱりちょっとでも気に入らないと、中古ダメだということで難癖をつけて引き取れと言ってくる。

 だが、原則、返品禁止、機能に購入前の説明に無かった不具合があったときのみ引き取るという約束事を貫いていかないと、リサイクルショップは成り立たない。

 だが、いろんな話の中には、やっぱり不思議な話がある。

 うちのウォシュレットの様な強者はなかなかないが、買ったものを置いていた場所がなぜか濡れる、とか、ある置物を買って以来、次々と新品の電球が切れる、ちょっと置いただけでお気に入りの皿が割れるという小さな不幸が起こるので、たまたまそれを欲しがっていた友人にあげると、今度はその友人に小さな不幸が重なった等という話。

 そういう話をしてくる人ほど、話を聞けば聞くほど実直で、嘘を言っているとは思えないのだそうだ。


 ところが、不思議なことに店に置いている間は、決してそんな事は起こらないのだそうである。

 まあ、家で眼につくところに置いているのと、広い店内に置いているのではちょっと条件が違うので、もしかすると些細な減少が起きているのかも知れないが。

「店は自宅に隣接していますしね、少々高額な商品も置いてありますから、夜中も時々見まわるんですよ」

 頻度はまちまちだが、多い日は、夜中の2時と朝方4時、6時と2時間ごとに見回る日もあるとの事。

「気が小さいんでね、気になりだすと見回らないと眠れないんですよ」

そう言って、店長はちょっと気弱に笑った。

それで、件のウォシュレットだが。

「泣いていた・・・覚えはないんですよねぇ」

物は、知り合いの業者からまとめて買ったのだそうだ。

もう、2ヶ月ほど前のことらしい。

新しくて丁寧に使ってあったので、殆ど掃除も修理も必要なかったのだそうだ。

 ただし、物が物だっただけに、なかなか売れなかったらしい。

 それで、それまで定価の半額にしていた価格を、1万下げたらうちが買っていったのだそうである。

「でも、それまでの間は、そんな事、起こらなかったんですよ。」

 そうなのかも知れない。

 いや、訥々と話す店長言葉を聞いているとそうだったのだろうと思えてくる。

 だが、現実に、うちのウォシュレットは泣いている。

 俺が、もう一度、そう言うと。

「実は・・・ですね」

店長は、これはあくまで推測なんだけれど、と念を押してから、次の話を教えてくれた。

 この品物を買い取った業者は、信用ある人物ではあるが、一方で、わけあり物件の処分もやっている。

 例えば、夜逃して競売にかけられた家の家財の処分とか、孤独死した老人の家の片付けを、親類が嫌がって請け負うとか。

「だから、絶対、入手先は教えてくれないのですが、このウォシュレットとかを持ち込んだとき、裏の喫煙所で一緒に話していると、ついこんな事を口走ったんですよね。

 A区の少年の事件、ありゃ酷いなぁって。

 トイレのドアが釘の跡だらけだったから、閉じ込めたのは一度だけじゃないなあって。

 その後、本人がハッと気づいて慌てて話を変えたんで、私も普通の世間話だと気にしていなかったんですけどね。」

それを聞いて、俺もあ、と声を出しそうになる。

A区の事件。

もう1年前くらいだろうか?

愛人の若い男と暮らしている母親が、息子の中学生存在だんだんと煙たくなって、そしてトイレに閉じ込めて。

「まあ、推測なんで、解らないんですけどね。」

いや、そうは言っても、こういう事は、一度気になるともうダメだ。

俺は店長に、解らないんなら、なんで思わせぶりな話をしたんだと、文句をいうと。

すみません。いま、ふと、思い出したもので。

 本当にすみません。」

 ひとしきり、素直に謝って、その後、ちょっと間をおいて、

「・・・その、今の話のお詫びというわけではないんですが」   

と、店長は切り出した。


「うちもカツカツなので、やっぱりご返品に応じることは難しいです。

 ですが、中古品として買い取ることは出来ます。

 普通、中古品の買値は、それ相応の低い金額にならざるを得ないのですけど、今、余計な口を滑らせたお詫びとして、今回に限って、お買いになった値段の半分で引き取る、というのは如何でしょうか?」

 俺は、うーんと考え込んでしまった。

 もちろん、本音は返品させて全額返金して欲しい。

 噂とは言え、さっきの話を聞いてしまっては尚更である。

 が、店の事情を考えると、機能自体はちゃんとしているウォシュレットを無理に引きとってもらうのは、きちんと対応してくれている店長に対しても

申し訳ない気がしてきた。

 それに中古品買取価格として考えると、買値の半額というのは、確かに大きい。

 それでかみさん相談させてくれ、という事になったのである。


「で、どう思う?」

 俺の問に、かみさんも考え込む。

 だが、そうしている間に、だんだんと俺の中では、もう半値で引きとってもらっても良い気がしてきていた。

 今の電話で、店長はこちらの事を、もう精一杯考えてくれているように思える。

 これ以上の条件を引き出そうとしても、話が拗れるだけだろう。

 半値で買い取るということは、約2万弱になるのだが、ちょっと気になって調べたところによれば、東芝製品がその程度で手に入るらしい。

 ウォシュレット大手のTOTOでなくなるのは、ちょっと嫌だったが、それでも新品で口コミの評判も上々の品物である。

 よし、半値で引きとってもらおう。

「あのさ」

 かみさん相談すると言いながら、結局、自分でかってに結論を出してしまった俺が、その結果をかみさんに伝えようと口を開いたのと同時に。

「ちょっと、待ってねぇ・・・」

 かみさんは、居間の隅に置いてあるパソコンに向かった。

「いや、あのさ、おれ、考えたんだけどさ」

「だから、ちょっと待ってって言ってるでしょ?」

 こうなったかみさんは、もう人の話なんか全然聞かない。

 諦めた俺は、かみさんパソコンで何かを調べだすのをじっと見てる。

 数回検索を繰り返し、いくつかのSSNBBSを覗いた後、

「あった!あなた、これ見て!」

そう言って、ひとつの頁を指さした。

「これって、なんだよ」

 俺は、ややぼやきながら画面を覗き込む。

 なにやら、ある新聞社の読者の投稿サイトらしい。

 ああ、あのトンデモ系投稿サイトか。

 こんなところ見てもなぁ。

不満に思っていた俺の目に、そのページのタイトルが飛び込んできた。

『霊のせい?ウォシュレットの返品について』

「あ、こ、これって」

買取なんてダメよ。

 これきっと、手の込んだ詐欺よ」

「え!」

 なぜか不敵な笑いを浮かべるかみさんと画面を見ながら、俺は絶句した。


~つづく~

asin:B002RV5XQG

 

 

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