私は毎日すべての事がだんだん良くなる

2006-12-14今度は双子の石

tatsu_del_cielo20061214

 

 

 

 

[] -03『 Tony's Bar 1 』 00:11  -03『 Tony's Bar 1 』 - 私は毎日すべての事がだんだん良くなる を含むブックマーク はてなブックマーク -  -03『 Tony's Bar 1 』 - 私は毎日すべての事がだんだん良くなる  -03『 Tony's Bar 1 』 - 私は毎日すべての事がだんだん良くなる のブックマークコメント

 

 

国電を新橋で降り、銀座方面に向かう。アマンドと十仁病院に挟まれた路を右に曲がってしばらく歩き、地下へと潜っていく。

ドアを静かに開けて中に入ると、そこは都会の喧噪から隔絶された、良く磨かれたクルーザーの内部となる。柔らかな照明が、ブラウンを基調とした細長い店内を暖かく照らし、長いカウンター越しの壁面を隙間無く覆うボトルが俺を迎える。

 

 

Tony's Bar

 

時間が早いせいもあり、まだ客数はさほど多くはない。先客に触れないように注意しながら狭い通路を奥へと進む。

ここは、カウンターに肘を置き、片足を止まり木に預けて静かに飲む。そんな店だ。女性だけでは入店させてもらうことはできない。

場所が決まると、トニーさんがすっと寄ってくる。素敵な柔らかな笑顔だ。本当のダンディーとはこういう人の事をいう。

 

「ソルト・レイク・シティを……」

トニーさんは優しい眼で頷くと2000種を越すという、壁一面のボトルの中から迷わず一本のボトルを音も無く抜き出し、シェイカーに手際よく注ぐ。

世の中にカクテルは星の数ほどあるが、そのほとんどは甘味が加えられている。このカクテルは、数少ない辛口のロングドリンク中の雄だろう。基本的な作り方は「ジン・フィズ」同様だが、甘味として用いるシュガー・シロップの代わりに塩を加える。

軽やかな音を立て、灯りをキラキラと反射しながら、シェイカーが生き物のように踊る。鮮やかなその動きは素晴らしいイリュージョンを観ているようだ。

 

淡く透明感のある美しい色が、すーっと俺の前に置かれた。

 

トニーさんのオリジナルカクテル「 Salt Lake City 」

 

わずかな間、柔らかな照明を浴びて光る「至福の輝き」を眺める。愛おしい。

グラスの下部を軽く指だけで掴み眼の高さまで上げると、グラスの向こうにトニーさんが見える。眼で「いただきます」とサインを送って口に運ぶ。爽やかで柔らかな口当たり。スッキリとした喉ごし。これはまさしくトニーさんそのものだ。

 

静かな悦楽。

 

この味とトニーさんの笑顔に逢いたくて、この店に通う人は多い。

俺は素晴らしいひとときに感謝し、次にトニーさんの笑顔に逢うのをいつにしようかと考えながらドアを開け、新橋の喧噪の中に戻っていった。

 

 

 

2001年6月……松下安東人(トニーさん)永眠。

 

 

 

 

 

 

[] -04『 Tony's Bar 2 』 00:15  -04『 Tony's Bar 2 』 - 私は毎日すべての事がだんだん良くなる を含むブックマーク はてなブックマーク -  -04『 Tony's Bar 2 』 - 私は毎日すべての事がだんだん良くなる  -04『 Tony's Bar 2 』 - 私は毎日すべての事がだんだん良くなる のブックマークコメント

 

 

トニーさんのレシピは、少しレトロ風味だ。

マンハッタンもベルモットの比率が高めにしてあるらしく、大人の味。どれを味わっても余所より美味しくなってしまうのは、トニーさんの笑顔のお陰でもある。

 

 

Irish Whisky / BUSHMILLS

 

今日もドアの外に喧噪と仕事と約束を置き去りにし、俺は狭い通路を奥へと進む。

カウンターに肘をつくと、トニーさんがすっと寄ってくるのはいつも通りだ。

 

「何にします?」と優しい眼で聞いてくる。

「ブッシュミルズが飲みたいんですけれど、どんな飲み方がいいですかね?」

「まずはハイボールにしますか?」

 

2000種を越えるという、壁一面を覆っているボトルの数は圧倒的だ。「どんなモノでもあるんですか?」という問いに、トニーさんは優しく「ハイ」と一言だけで応えてくれたことがある。その笑顔には奢りも高ぶりもなく、老舗の名バーテンダーだけが見せることのできる「粋」があった。

 

「ブッシュミルズ」は、アイルランド人が「ワイフを質に入れても飲む」というモルトだ。

北アイルランドの小さな町の名前であるが、「林の中の水車小屋」という意味だそうである。17世紀初めから続く世界最古のウィスキー蒸溜所から最初の一本が送り出されたという、微かなピート・フレーバーが特徴の「ブッシュミルズ・モルト10年」。香り高い辛口の酒だ。

 

ガッシリとしたグラスでサーヴされたハイボール。

琥珀色の中を湧き上がるソーダの微泡。

ガッシリとしたグラスは、ガッシリと掴んでやるのが礼儀だ。

グラスの縁越しにトニーさんに合図を送ると、フルーティーな感じの香りが漂う。

カランッという氷のシャープな音とともに、喉の奥にブッシュミルズを放り込む。

口の中いっぱいに400年の骨太な味が拡がった。

 

その芳醇な余韻が浮き世を忘れさせてくれる。

 

 

 

アイルランド人は、ワイフを質に入れても「ブッシュミルズ」を飲む。




 

辰2006/12/14 00:28粋で格好いい。
『 Tony's Bar 』は今でも喧噪とは無縁の一時を提供してくれているはずです。
トニーさんの柔和な笑顔が無いのは寂しいけれど、静かな大人空間です。

puyoppuyop2006/12/14 10:23Irish Whisky って、まともに飲んだこと、無いんですよね。
唯一、飲んだのは、高校の時、喫茶店で飲んだIrish Coffeeに入っていただけと言う。^^;
いや、旨かったッすけど。
今考えると、結構な量入っていたので、あんなの高校生に飲ませて良かったんかとは、思いますが。

ぢゃあ、今度は銀座で是非。^^

辰2006/12/14 13:58★ぷよさん。
コーヒーなら、ハイチ風にラムをぶち込む方が個人的には好きっす。
ブードゥーの呪文で美味しく感じるのかも(笑)。
このお店はね、銀座10丁目になるかな?
つまり新橋ね(爆)。
行きましょ!