私は毎日すべての事がだんだん良くなる

2007-04-10偽アマゾン撮影隊騒動記

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◆ Perfect Storm 沖縄版 ◆

 

 那覇に着いて東京の小林に連絡を入れると、そのまま石垣へ行けという指示だ。しかし時間が遅い事もあり、台風の影響で那覇〜石垣島間のANKは全滅である。先乗りした撮影部は既に西表入りしたとの事。取りあえず後続の俺たちに今出来ることは何もない。空港そばのビジネスホテルに飛び込み、とにかく体を休めることにした。

 翌朝空港に行くと、やはりまだ暴風雨の影響で欠航が目立つ。幸いこの天候のせいかキャンセルが相次ぎ、待機時間こそたっぷりあったものの、比較的すんなりと石垣島へ渡ることができたのである。この『すんなり』は、あくまでも羽田と比較して、である。

 たくさんの機材があるため石垣空港からタクシーに分乗し、離島桟橋というとんでもない名前の埠頭に降り立った俺たちを待っていたのは、フェリー全便欠航を非情に告げる案内。昨日一便だけ出航したフェリーに、なんとか監督と撮影部が潜り込むことができ、先乗りして可能な限りロケハンを進めておくこととなっている。俺たちが西表に渡る手段はいったいあるのだろうか?

 ここまで来てまた足留め? 目と鼻の先だというのに……。

 

 俺たちは手分けして、あちこちに西表便の問い合わせを続けていたが、軒並み断られ続け諦めムードが漂っていた。もう午後も半ばを過ぎている。

(ついてねぇなぁ……)

 そこに美術の藤田さんが走って来た。

「行ってくれるって! 西表!」

 藤田さんは最後に漁船に声をかけてみたと言う。

「どっちみちこの天気じゃ漁なんてできないから、行ってくれるって!」

「大丈夫なの? この天気で」

「俺たちが耐えられるなら問題ないってよ」

「耐えられる耐えられる!」

「よぉし、行きましょう!」

 

 暴風雨の合間を縫って、俺たちは小さな漁船に機材を積み込んだ。撮影隊が一番大切にするのはキャメラである。人よりもキャメラである。キャメラマンの代わりは最悪何とかなるとしても、キャメラが壊れたらもう何もできないからだ。キャメラそのものは先乗り隊がすでに持って行っているが、周辺機材はまだまだたくさん残っている。これはつまり、小さな漁船の一番おいしい位置は、撮影に関わるモノを中心とした機材の山が占めるということである。このことについては誰にも異論がない。

 

「あんたらもしっかり掴まっときなよ」と言う、船長さんと呼べばいいのか船頭さんと呼べばいいのかあいまいな初老のオジサンに、全員が異口同音に「問題ないっす。お願いします!」と、威勢良く返したのを合図に船はエンジン音を高めていった。

 俺たちは一様に安堵していたのである。とにかくいろいろあったけど、もうすぐ西表島へ行けるんだ……と。ここまでの長い長い道のりを思い返しながら『よく頑張ったな』と自分たちの事を慰めていた。

「あんたらも大変だネェ、こんな日にわざわざ西表かい?」

「いえいえ、仕事ですから」

 俺たちの返事には「♪」が付きそうな勢いである。くつろぎ始めた俺たちを乗せた船は、埠頭を回り込んで外海に出ていこうとしていた。風雨はまだまだ激しい。

「こっからちょっと揺れるヨォ」

 船長兼船頭さんが、場違いな程暢気な口調で操舵輪をグルリと廻した。その直後、船長兼船頭さんを除く全員が有無を言わさずデッキにへばりつく事となった。

 

 どこが「ちょっと揺れる」だ! 遊園地の絶叫マシンが、まるでオモチャじゃんか!

 舳先が波に乗り上げていく時は、何かに掴まっていないと体がズリズリと船尾に向かって滑っていく。波頭を越えた瞬間、体はその空間に置き去りとなり、船だけが波の谷間に向かって真っ逆様に落ちて行く。俺たちは船に結ばれた命綱に引っ張られ、一瞬遅れてその後を追う。遊園地の絶叫マシンはせいぜい一〜二分も乗っていれば一周終わるのである。しかも安全バーがもれなく付いてくる。ところがこの天然絶叫マシンは、果てしなく果てしなく俺たちを翻弄する。持ち上げ、振り回し、叩きつける。ライフジャケットと命綱の何と頼りないことか。ここに至って全員が、フェリー欠航の意味を体で思い知らされたのである。今であれば、さしずめジョージ・クルーニー主演の映画『パーフェクト・ストーム』を地で行ってるという感じだろう。

「あ〜っ……」

 塩辛い波しぶきをたっぷりと浴びながら、そして反乱に立ち上がった胃の存在を嫌というほど生々しく感じながら、俺たちは頭の中が真っ白になっていくのを虚ろに感じていた。