私は毎日すべての事がだんだん良くなる

2007-04-24偽アマゾン撮影隊騒動記

[] -『偽アマゾン撮影隊騒動記』-06 14:38  -『偽アマゾン撮影隊騒動記』-06 - 私は毎日すべての事がだんだん良くなる を含むブックマーク はてなブックマーク -  -『偽アマゾン撮影隊騒動記』-06 - 私は毎日すべての事がだんだん良くなる  -『偽アマゾン撮影隊騒動記』-06 - 私は毎日すべての事がだんだん良くなる のブックマークコメント

 

 

◆ ほれ見ろ! ピーカンだっ! ◆

 

 翌朝は台風一過。もちろん思いっきりいい天気だ。ピーカンとは両切り煙草のピース缶の事である。青ではなく紺一色の缶の呼び名が、いつの間にか雲ひとつない快晴のことを比喩するようになったのだ。

『あけぼの館』のお姉さんに作ってもらったおにぎり弁当を持ち、『偽アマゾン撮影隊御一行様』がマイクロバスに乗り込んだ。ようやくスタッフ全員の本領発揮の場面がやってきたのである。撮影すべきカット数は多いが、それでもみんないい調子で撮影現場に心を飛ばす。マイクロバスは半周回道路をゆるゆると走る。山本コータローの『岬めぐり』がマイクロの後を追いかけてきた。

 

 コーディネイターの中上さんが妙に落ち着かない。どうしたのか? と思っていると、マイクロを停めた中上さんは、道路脇の草むらに分け入っていった。しばらくして戻ってきた中上さんの手には萎れた花がひとつ。アサガオである。昨日の激しい風雨で落ちてしまったのだろう。

「昨日来た時は、雨の中でもきれいに咲いてたんですよ」

「大丈夫だよ。またすぐ咲くよ」

「そうっすよ、とにかくハードな撮影をチャッチャとやっちゃいましょ」

 

 今日の予定はアマゾンの支流を遡る主人公と情景カットである。島の南部にある仲間川にデッキボートを出し、小舟を引いて上流へと向かう。河口からしばらくは小さな島のわりには川幅があり、川岸にはうっそうとマングローブが生い茂る。穏やかな水面に澄んだ空が映り込む、ファンタスティックな光景が延々と続く。ここまでアマゾンイメージとは! そこら中がシューティングスポットである。フィルムはガンガン廻った。いくつかのクリークで、小舟に乗った石島さんが、覆い被さるシダ類をかき分けながら遡行していく姿を撮る。巨大な板根で有名な、世界最大のサキシマスオウの木を回り込みながら探検を続ける石島さんを収める。写真では何回か見たことがあるが、実物の巨大な板根はやはり圧倒される。しかし残念なことに西表ジャングルの中とはいえ、有名な観光スポットである。ゴミこそないが、踏み固められて足跡だらけの地面が少し興ざめだ。

 石島さんは、探求心が強く一本気な研究者という役どころをうまく掴んでくれている。基本的な演技部分ではほとんどNGが出ない。これはとても助かる。

 午前の撮影は予定通り気持ちよく進み、マイクロの中でおにぎりを食べながら移動する。コータローの『岬めぐり』は相変わらずマイクロの後を追いかけてきている。いい調子だ。

 西表には珍しく、開放感のある広い空間に到着し、撮影を再開する。密林をかきわけて出てきた石島さんが澄んだ大空を振り仰ぐシーンだ。ここで村田監督が難しい顔をする。撮影自体に問題はないのだが、何か気になっている様子だ。これ以降、村田監督が時折厳しい表情を見せるようになるのである。

 

 予定通り撮影が進むということは、撮影隊にとって一番嬉しいものである。『あけぼの館』に帰ると、思いがけずできた夕刻のフリータイムをそれぞれ満喫する。『あけぼの館』が勝手に「庭」と呼んでいる眼の前の海辺に、デッキチェアを向けて一眠りするもの。近場を散策しながら星の砂を集めるもの。待ちきれずに自室でビールを呷っているもの。ロビーで演出談義の熱が入りすぎ、どう考えても喧嘩としか見えないやりとりを延々続ける二人……。いつもの撮影現場と変わらない。こんなにゆったりとした気分になったのは久しぶりだ。

 とにもかくにも撮影初日は全てがうまく廻り、素晴らしい一日であった。『あけぼの館』のオッチャンやお姉さんの人懐こい笑顔がとても素敵に見える。

 

 撮影二日目も素晴らしい天気に恵まれた。

 今日は昨日とは正反対、島の北側にある浦内川へと向かう。『あけぼの館』からは近い。ボートで浦内川をしばらく遡り、一度岸にあがって三十分ほど歩き、西表の名所のひとつでもある「マリウドの滝」に向かう。滝に近づくにつれてドーっという音が足下から伝わってくるようになり、亜熱帯雨林の草いきれの中に爽快な水の匂いが満ちてくる。台風が降らせた雨のおかげで滝の水量は多い。こいつは迫力のある絵が撮れる。二十メートル程の落差で二段になった「マリウドの滝」をバックに石島さんが歩く。ここで奇妙なモノを見た。滝壺を巡った水は岩肌を舐めながら下流を目指していくのだが、この岩肌のあちこちに穴が開いているのである。小さなモノは直径十センチほど、大きいモノでは直径五十センチほどもあるその穴はほぼ垂直に穿たれており、中には相当深いものもある。スタッフ全員の頭上に『???』がたくさん突き刺さった。

 中上さんによると、この穴は長い年月をかけて、水と小石が作り出した芸術であるとのこと。水に運ばれた小石や砂粒が、岩肌のほんの僅かな凸凹にあたり、少しずつ少しずつその岩肌を削り取っていくのだそうだ。良くみると確かに穴の底にはいくつかの小石が水流とともに踊っている。種明かしをされてなお、自然の力の素晴らしさに感動を覚えた。

 さらに川沿いに鬱蒼と茂るジャングルの中を遡り、「カンピレーの滝」まわりを歩く石島さんを撮る。体格のいい石島さんはアマゾン風味の荒っぽい風景によく溶け込んでいる。すでに石島さんは心身ともに、ストイックな研究者になりきっているようだ。ただ歩くだけのシーンでもさすがにうまい。

 

 ジャングルの中を歩く石島さんを撮るために、今回持ち込んだ機材の中には秘密兵器『ステディカム』がある。動く被写体の場合、街中ではレールを敷いてドリーと呼ばれる移動撮影台で被写体をフォローするが、今回のアマゾンシーンのように、地形的な条件が厳しい撮影では、この『ステディカム』が威力を発揮する。これはパイプやスプリングがやたらと絡み合うフレームを「着た」オペレイターが、被写体の動きに合わせて移動するものだ。フレームのおかげで、オペレイターが激しく動いてもキャメラそのものは安定して被写体を追い続けることが可能となる。三十五ミリの機材は大きく重い。オペレイターは密林の中で大汗をかきながら、撮影監督である斎藤さんのOKが出るまで走り続ける。

 

 俺たち映像屋が映画を観て感動する場合には二通りある。ストーリーそのものに入り込んで普通の観客同様に感動する場合と、「どうやってこのカット撮ったんだ?」「この撮影すごく大変だったろうな」という職業目線で感動する場合だ。場合によっては、本編が終わってから流れるスタッフロールを観て「オォーッ!」ということさえある。

 

 いいスタッフといい役者、圧倒的な自然。う〜ん、何て素晴らしい仕事なんだ!