私は毎日すべての事がだんだん良くなる

2007-05-12偽アマゾン撮影隊騒動記

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◆ 愛しのアサガオ ◆

 

 翌朝、フェリーで石垣島の離島桟橋へ戻り空路那覇へ。行きはボロボロ、帰りは記憶にもまったく残らない程あっけない。というかこれが普通なのである。数日前の羽田から西表島までの、遠く長い道のりは一体何だったんだろう?

 東京に戻る村田さんたちを見送った、撮影部+俺の四人は、荷物をホテルに預けると午後の国際大通りに繰り出した。久しぶりに文明開化の飯が食える! と意気込む俺たちは、スタミナを付けにステーキ屋へ。でっかいアメリカン・ステーキをたらふく食べたのだが、何故か『あけぼの館』のお姉さんに作ってもらったおにぎり弁当がやたらと懐かしく思い出された。有ちゃんがポツリと「アレ、旨かったなぁ……」と呟いた一言に、全員遠い眼となってしまった。沖縄一番の繁華街にいる今、振り返る西表島奥深くでの出来事は夢の中だったようにさえ思える。

 喰えば元気になるという共通の特技を持つ俺たちは、「明日からガンガン探すぞぉ!」と意気込んでホテルの部屋へと戻った。急なリザーヴでツインが二部屋しか取れず、俺と斎藤さん、有ちゃんとセカンドという部屋割り。まずは斎藤さんと俺の部屋にそのまま全員入り、翌日からの段取リングの再確認をすることとなった。

 俺は何の気無しにいつものように窓に向かい、カーテンを開け外を一瞥する。夕陽に煌めく那覇港が望める……。

「ア――――ッ! 斎藤さんっ! あっ、あれ――っ!」

「どうしたぁ?」

 突然喚きだした俺の脇から斎藤さんが外を見る。有ちゃんたちも「何事か?」と窓際に集まる。

「ア――――ッ!」今度は俺以外の三人が喚きだした。

 

 俺の指の先百メートル程のところに、我らが愛しのアサガオが居た!

 それも群生だ!

 

 不思議な事にそれだけの距離がありながら、俺たちの眼は勝手にズーム・インし、それが間違いなくアサガオであることを確認していた。夕方だから当然しぼんでいる。不思議なことにそれでも俺たちにはちゃんとアサガオだということが判ったのである。

 一斉にきびすを返した俺たちは、我先にと部屋を飛び出し、ホテルの裏へと走って行った。なりふりなど構っていられない。のんびり歩いていたら折角のアサガオが逃げてしまいそうな気がしていた。

 ホテルの裏庭を斜めに突っ切り、敷地を巡る細道を挟んだ一角に駆け寄ると、アサガオは逃げもせず俺たちを待っていてくれた。今度こそ本当に出会えたのだ。ほんわりと淡い青・赤・紫のパステルカラーと、艶やかな緑の葉のアサガオだ。ただし、野アサガオなので花は小振りで、葉はシソの葉のような形をしている。それでもアサガオはアサガオだ。俺たちはそれぞれの思いを込めてそのアサガオを凝視めていた。

 

「よぉし! 行くぞ!」斎藤さんが気合いを入れた。

「はいっ!」

 まずはアサガオの開花シーンを撮らなければならない。これはタイムラプスという手法で、間欠的に一コマ一コマ撮影することで、時間短縮再生を実現する。本来であれば数分〜数十分かかる微妙なアサガオ開花の動きを、数秒の間で再現することができるのである。

 斎藤さんと有ちゃんは、なるべく大きく元気な蕾を持つツルを選り分け、切りとった。植物にハサミを入れる時に、これほど感情がこもったことは後にも先にも無いだろう。

 群生の中から選ばれた、今回の作品でもう一つの主役を努めるアサガオは、有ちゃんたちの部屋の片隅で、用意した竹の支柱に絡まり、黒いセットペーパーを背景に演技の準備を終えた。これから深夜にかけて、太陽の代わりとなる照明によって開花していくこととなる――ことを、誰も疑っていなかった。

 ところが、これが開かない。照明の角度や距離を変えようが蕾を代えようが、頑として開こうとしない。間欠的に切るシャッターではあるが、確実にフィルムは消費していく。しかし、ファインダーの向こうの蕾は、いくら待ってもその姿を変えようとはしなかったのである。時計は既に日付変更線をだいぶ前に越えた。そろそろ決断の頃合いだ。

 決断するといっても選択肢はひとつしか無い。部屋での撮影を諦めて屋外で撮るということだ。タイムラプスの場合、被写体のポジションが動くと再生時にとても不自然になってしまう。だから野生の状態は好ましくないのだが、やむを得ない。僅かな仮眠を取り、日の出に合わせて群生前でスタンバイすることとなった。