私は毎日すべての事がだんだん良くなる

2007-04-03偽アマゾン撮影隊騒動記

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◆ クランクイン……? ◆

 

「これでOK出たから、よろくね」

 宣伝担当の相変わらず軽い一言が返ってきた時、ようやく「先が見えた」と全員が胸を撫で下ろした。

 OKとなった案は、もう一人のプランナー藤澤が企画したもので、『SEED』というタイトルが冠せられている。若い植物学者がアマゾンの奥地で発見した『未知の植物の種』を、マルチメディア・ネットワークを駆使して世界中の研究者たちとのやりとりを重ねながら、ついに発芽〜開花させるまでを描いたものだ(インターネットが発達した今であれば、こんな事はごく当たり前であるが、十年以上も遡る当時では、まだまだと〜っても凄いことだったのだ)。

 ショウルームネタとしては非常に判りやすいストーリーで、良好な効果が期待できた。

 

 早速、役割に応じてそれぞれが準備に取りかかる。スケジュールを立て、予算を組み、撮影のための交渉が進んでいく。

 

 

 最終的なコアスタッフが次のように固まった。

 

代理店営業担当       …… 小林俊一

代理店制作担当       …… 古田達雄

総合制作管理        …… 佐伯達也

プロデューサー       …… 蔦野雅和

出演            …… 石島 武

企画            …… 藤澤 弘

監督            …… 村田 宏

撮影            …… 斎藤昭夫

照明            …… 後藤邦彦

美術            …… 藤田慎二

制作            …… 杉田秀次

CG制作          …… 鈴木健太

音楽            …… 城田堅一

フィルム編集(ラッシュ)  …… 西東京現像所岩田編集室

ハイビジョン編集およびMA …… IMAGEN

 

 

『SEED』のシノプシスを基に村田監督が絵コンテをあげてきた。いい感触だ。これなら「行ける!」

 撮影は五月の連休明けからスタートすることとなったが、ここで一つ問題が発覚した。主人公が植物学者を目指すきっかけとなったのは、小学生の頃の『アサガオ』の栽培という設定である。ストーリーの中で彼はアマゾンに行き、『未知の植物の種』を発見。その種の面倒を見、発芽させ、開花させるのだが、そのシーン毎に『夏休みにアサガオを咲かせる自由研究』に取り組む、主人公小学生時代の姿がカットバックで描かれる。

 この『アサガオ』が問題となったのである。アサガオが、あまり身近すぎて誰も深く考えていなかったのだが、五月にどうやってアサガオを撮影するのか? で引っかかってしまったのだ。アサガオは夏の花なのだ。この時期にどうやって咲かせようというのだ?

 今さら企画を立てた藤澤に泣き言を言っても始まらない。俺は手帳と電話に張り付き、片っ端から『撮影可能なアサガオ』探しに没頭した。商業的にアサガオを扱っているところは軒並みバツ。当たり前である。夏の花を今から咲かせてもまったく商売にならないのだから。そこで思いついたのが、小学校の授業で扱うアサガオである。暖かい地域であればもうやっているのでは? と考えて沖縄の小学校に電話を入れる。

「いやぁ、気持ちはわかりますがね。沖縄も日本ですから、本土と同じ教科書を同じ流れでやっていきますんでね。やっぱりアサガオは夏休みにならないとねぇ……」

 電話に出た先生は、さすがに鼻白んだ様子である。そりゃそうだ。思いっきり失礼してしまった。しかし、そうなると他にもう手段はないのか? というところまで追いつめられてしまった。たまたま近くにいた沖縄出身の若手にその話しをしたところ、「アサガオなら五月には自生してますよ」という返事が軽く返ってきた。

「ホント? それってヒルガオでもなく、ユウガオでもなく、ヨルガオでもなく、アサガオ?」

「もちろん。それってヒルガオでもなく、ユウガオでもなく、ヨルガオでもなく、アサガオですよ」

 その若手が実家に電話を入れると……

「大丈夫、もう咲き始めているところもあるそうですよ」

「コバちゃん! 沖縄行くよ! アサガオあるって!」

 ここ数日、不安気な表情が続いていた小林の顔に、ニヤリと笑みが戻った。

 

 ひとつ関門クリアである。元々、沖縄には撮影に行く予定であった。沖縄といっても西表島だ。西表は南の果ての島であり、国内では唯一亜熱帯雨林があるのである。『SEED』の撮影にはアマゾンシーンが必要なのだが、もちろんアマゾンまで行く時間も金もないため、当初からアマゾンシーンは西表島を想定していた。

 沖縄の西表島を得意とするコーディネイターに連絡を取り、コンテを送り、段取リングを依頼する。同時にエアーや宿泊先などの予約を次々に入れる。俗に言う『アゴ・アシ・マクラ』だ。沖縄の予定が固まれば、後の撮影は首都圏で間に合う。帰京後のスケジュールもどんどん決定していった。撮影スタジオの東報ビルティ、西東京農大の研究室、筑紫大植物研究室の温室、入間の古い洋館、丸の内オフィス街、そして吉祥寺にある成京大学の桜並木には三十メートルのクレーンを入れて大俯瞰の撮影を行うこととなった。

 クランクアップ後もビッシリである。合成するCGを設計しながらも、まず撮影したフィルムを現像し、ラッシュ編にまわし、初号試写。作曲および録音。そこまで問題が無ければ、フィルムからハイビジョンフォーマットへのコンバートを行い、ハイビジョンによるオンライン編集、MA(Multi Audio/ナレーションや音楽、効果音を含む、音響全般の編集)と、納品日までの作業が複雑ながらも整然と行列を組んでいる。

 

 改めてスケジュールを見ると予想以上にタイトだ。連日気を抜く事ができない。幸い映像業界のスタッフは揃って「体調は気合いで保たせる」連中である。たまに美味しいものでも食べることができれば、すべて笑い話にすり替えてしまう、逞しく頼もしい連中である。

 

「コバちゃん、行けるよ。ちょと厳しいけどね」

「オケ! それじゃあクランクインだっ!」

 ようやく俺たちは立ち上がった。

 

 

BOBOBOBOBOBO 2007/04/05 00:53 その昔「ムラサキ(植物:絶滅危惧品種)の花を撮ってこい」と言われて苦労した事を思い出しました。

辰 2007/04/05 12:56 ★BOBOBOさん
それは大変だったでしょうね。お察しします。その苦労は報われたんでしょうか? いい経験を積んだと思うのが一番ですね(笑)。

BOBOBOBOBOBO 2007/04/10 00:06 結局、植物園にありました。そうそう。
1:「ムラサキの花」の写真
2:「ムラサキハナナ」の写真
という、非常にややこしい仕事でしたよ。

辰 2007/04/10 00:28 ★BOBOBOさん
なるほど、植物園かぁ(笑)。
ムラサキハナナというのは初めて知りましたが、確かにややこしいオーダーですねぇ。
和の心のような花なんですね、ムラサキって。万葉集にも詠まれているんですね、勉強になりましたぁ!

ゲスト



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