私は毎日すべての事がだんだん良くなる

2007-05-19偽アマゾン撮影隊騒動記

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◆ California Dreamin' ◆

 

 代理店の不良営業とダクションの不良プロデューサーが、簡単な荷物をぶら下げてLAX(ロスアンジェルス国際空港)のゲートを出ると、そこには『AMAZON』とだけ書かれたプレートを掲げたヨシさんが待っていた。

 ヨシさんは、THEOREMの若いコーディネイターだ。最近参加したスタッフだそうで、俺たちは初めてお世話になる。口数が少なくガッチリとした体型で上背もあり、頼れそうな印象だ。

「お疲れさまです。じゃあ、行きましょうか」

「あ……はい。よろしくお願いします……」

 呆気ないのか素っ気ないのか、とにかくそのままステーションワゴンに乗って、最初のライブラリーへと向かった。

 どうでもいいけど眠い。キッチリとビジネスクラスで飛んでは来たが、ずっと窮屈な飛行機の中で揺られていたのである。日本であればすでに深夜。俺も小林もさすがに言葉少ない。しかし時差ボケを克服する一番の方法は「現地の夜になるまで決して寝ない事」である。それに俺たち二人には、これからアマゾンのフィルムとの大事な大事なご対面があるのだ。

 夏を思わせるロスアンジェルスのカラッとした陽気の中、ワゴンはダウンタウンを横目にハリウッド・ブールヴァードを郊外に向けて走る。抜けた青空の中に低くシンプルな建物が続く。カッコイイ。パームツリーや芝など緑が多いが、すべて移植されたものだ。もともと砂漠に作られた街のため、ロスアンジェルスの地下には水源がなく、緑を維持するために朝と夕にスプリンクラーでの散水があちらこちらで見られる。この水はわざわざ遠くグランド・キャニオン(コロラド川)から、500キロを越えて引いてくるのだそうだ。スケールが違いすぎて実感が湧かない。

 しばらく走り、ワゴンは広い敷地を持つパステルグリーンの建物に滑り込んだ。

 

 紹介もそこそこに、オフィス裏のライブラリールームに通されると、決して狭くはない部屋全体がフィルム缶で埋め尽くされている。ちょうど図書館の棚のようにフィルムのラックが隙間を極端に狭めた感じで連なっている。

 図書館で言えば司書にあたるであろう女性が、片隅のでかい作業デスクの上を指さす……と、そこにはすでにピックアップされたアマゾン関係のフィルム缶が山になっていた。

「じゃあ、ごゆっくり。僕はちょっとオフィスまで一度戻って来ますので」

 ヨシさんは圧倒されている俺たちを残し、淡々とした表情のままその部屋を後にした。

「……こんなに……あるの? ……」

「これ全部アマゾン?」

「取りあえず……見てみる?」

 デスクには『movieola(ムビオラ)』という、ラッシュを見るための簡易映写機が据えてある。一本目のフィルムをリールにかけ、ライトを点けると小林がハンドルをゆっくりと回し始めた。俺も隣で五インチほどのムビオラのヴューウィンドウを覗きこみ別なフィルムのチェックを始めた。

 カララララララ……とムビオラを回す音が重なる。

「おぉ、アマゾンだぁ」

「ホントだ。アマゾンここに居たぁ」

 これなら絶対に見つかる。確信が俺たちを元気付かせた……のは、ほんの三十分ほど。

 カラララ・ラ・ラ・ラ……ラ………とムビオラの音が遠くなっていく……。

 時差呆けと安心感、それと膨大なフィルムとの対峙が、俺たちの緊張感を少しずつ少しずつ奪っていったのである。

 無意識に、そしてほとんど機械的にフィルムをかけ、ハンドルを回す。目はヴューワーを覗いているのだけれど、視線はすでに虚ろ。

「あぁ、コバちゃん……これ……どうかなぁ?」

「んー? ……どれぇ……? ……あぁ……いいかもねぇ……」

「……じゃあ……キープしとこうか……」

「そうだね……一応ね……」

 

「どうですか? いいのありました?」

 ヨシさんが戻って来た頃には、ちゃんとチェックできたかどうかは別にして、フィルムの山はほとんど確認済みスペースに移動しており、キープフィルムも何本か選り分けられていた。

「ああ、いい調子みたいですね。これが押さえの分ですね? じゃあキープ頼んでおきますから」

 ヨシさんが手続きしてくれている間に残りも見終わり、俺たちは固まった背中を久しぶりに伸ばした。

「終わりました? さて、じゃあ次に行きますよ」

(オニ……)

 体格のいいヨシさんの背中に向かって、俺と小林二人の視線が突き刺さった。

 

 オニのヨシさんに連れられて次のライブラリーに着く頃から、記憶がとぎれている。そこでもひたすら見たのは確かで、その後、地ビールの工場兼イタリアンレストランで夕食を摂っているあたりから、まったく記憶が欠落している。

 

 当然の如く、ヨシさんは翌日もハードスケジュールを抱えて迎えにきた。

 俺たちはまずヨシさんに頼み、ロスアンジェルスに来ると必ず寄る『Melting Pot』というオープンカフェに連れていってもらう。繁華街からは少し離れた五差路の角にあるその店で朝食を摂るのは楽しみのひとつだ。揃って『Renaissance Brunch』というメニューにする。大きめのワッフル二枚とカリカリのフライドベーコン、そして卵。

 卵料理は『Two eggs Over Easy』だ。アメリカには何と卵の調理方法が二十数通りあるそうだ。Sunny side upやScrambleといった、定番としか普段出会うことのない日本人には新鮮な驚きがある。Over Easyはオムレツのようなカタチに仕上げる目玉焼きで、中の黄身はトロリと半熟。ベーコンはどういう焼き方(揚げ方?)をしているのだろう、『Melting Pot』以外で見かけたことがない。両手で軽く割れるほどパリパリしていてすこぶる美味。大盛りサラダもついた『Renaissance Brunch』は、大きなプレートで結構な量だ。

 ニコニコ顔のオジサンがプレートを下げに来て「Enough?」と覗き込む。俺たち二人は腹をパンパンと叩いて笑顔を返した。満ち足りた朝食。

 

 オニの淡々ヨシさんは、広いロスアンジェルスの中を、あっちへこっちへと案内してくれる。

『SHERMAN GRINBERG FILM LIBRARIES, Inc.』

『UNIVERSAL STUDIO』

『DISNEY FILM LIBRARIES』etc.

 欲しいフィルムが山のようだ。日本ではサッパリなのに、流石は映画の国アメリカ。

 一通りライブラリーを確認した後、THEOREMに立ち寄り黒岩さんと再会。そこでリストアップした素材を再検討し、東京に連絡を取る。内容を確認して各ライブラリーにプリントのオーダーをすると……

「終わりだぁっ!」

 

 時にオニと思えたヨシさんの、淡々としながらも効率の良いコーディネイトのお陰だ。今後はオニに見える人には感謝するようにしよう。

 

 

ゲスト



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