私は毎日すべての事がだんだん良くなる

2007-05-29偽アマゾン撮影隊騒動記

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◆ バチカンの完パケ ◆

 

 LAX(ロスアンジェルス国際空港)に向かう前に、THEOREMの黒岩さんから託されたヴィデオテープがあった。

「カナダのサーカスなんですよ。今までのとはまったく違う凄い連中です。なんとか日本で興業できるようにもって行きたいんですけど、ルートの開拓できませんかね?」

「いいすよ。帰ったらそれ系の人にあたりを取ってみますよ」と、気安く預かる小林。

 

 たった十数秒のフィルムを入手するためだけにロスアンジェルスに行った俺たちは、無事成田に帰ってきた。税関を通り抜けようとすると、小林が入国管理官に呼び止められる。ノーチェックで抜けた俺はカウンターの脇で待つが、管理官は小林にトランクを開けろと言う。

「変なものなんか持ってませんよ」と言う小林をよそに、トランクの中を綿密に改める管理官。

「このヴィデオは何です?」

「あぁ、それはカナダのサーカスを紹介するテープです」

「サーカス?」

「知り合いから頼まれて持ち帰ってきたんですよ」

「……ちょっと中身をチェックさせてもらいます。ここで待っててください」

「はぁ……」

 しばらくして戻ってきた管理官は、

「これベータですよね? 何で見られないんだろう?」と小林を見る。

「あぁ、それはベータカムというプロ用のテープで、放送に使ったりするんですよ」

「そうやって、いけないテープを持ち込む業界の人、多いんですよね」

「勘弁してくださいよ。ちゃんとしたテープですって」

 しばらく小林を見つめていた管理官は、カウンターから続く長い行列をチラリと見やると、

「まぁ、いいでしょう……」と、意外とあっさりと解放してくれた。

「やっぱりミテクレって重要だよね、コバちゃん」

「君にだけは言われたくない」

 帰国の瞬間、いきなり憮然とする小林であった。

 

 後日談だが、帰国後、小林はあまり深く考えることなく、そのテープをしかるべきスタッフを通じて興業系業界へと流した……が、後の祭り六日のアヤメ。何でちゃんと自分たちの居場所を確保しておかなかったかなぁ……と、悔しい思いをしたのはしばらく後のことだった。そのテープに収録されていたのは、なんと『FASCINATION』『SALTIMBANCO』『ALEGRIA』そして『QUIDAM』で、それを観たすべての日本人の度肝を抜いた、あの『CIRQUE DU SOLEIL』だったのである。このテープに対する貪欲さに欠けていたため、小林も俺も、『CIRQUE DU SOLEIL』の単なる観客のひとりとして興奮するだけに終わってしまったのだ。場合によっては美味しく関われたかもしれないが、こういうニアミスは往々にしてある。それもまた良しではあるが。

 

 それからのスケジュールは、記憶する間もないほどのスピードで、順調に消化していった。初号試写も問題なくクライアントのOKを取ることができ、仕上げの各工程もタイトながらもスムーズに進行する。それぞれのパートで全力を振るったスタッフ全員のパワーが、一本のハイヴィジョンテープに収められていく。

 ここに至っては、ストや台風を始めとする数々のアクシデントも笑い話と化している。みんな「上がり」の達成感に酔っているのである。

 すべての作業を終え、完成パッケージのクライアント試写が行われた。KUSUBURIの宣伝部長を始め、担当課長および関係担当者をIMAGENの試写室に招く。二度繰り返して上映を行い、問題無いと検収のお言葉を頂戴した。

 

 完成!

 

 細かいことを言えば、大手町ショウルームの機器にセットして、調整終了までが契約上の納品となるのであるが、制作担当の俺たちの出番はこれで終わりだ。

 クライアントを試写室から送り出すと、俺たちは改めて関係スタッフだけで最後の試写を観た。

 そのわずか十分弱の間、誰ひとり身じろぎせず、スクリーンに食い入るように、観た。

 一人ひとりの胸の中には、制作期間としては短くも、たくさんの事があったこの作品に対する、それぞれの熱い想いが去来していたはずである。

 映写終了後、IMAGENの映写技師は、すぐに灯りを点けることはしなかった。気の利くヤツだ。

 

 わずかな時間ではあったが密度の濃いひとときが流れたあと、小林が立ち上がり

「バチカンっすね! みなさん、ありがとうございました!」と頭を下げた。

 バチカンとは「バッチリ完璧」のことである。それぞれが全員と、握手をしたり肩を叩き合ったりしてお互いの苦労を称えあい、ひとり、またひとりと、その試写室を後にしていく。

 

 撮影監督の斎藤さんが、俺のところにやってきた。

「ナイス・ムードメイカー」

 斎藤さんは、ひとことそう言うと、俺の頭をコツンと叩いた。

 

 それはとっても心地よい痛みだった。

 

 

              了

 

 

ゲスト



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